[最新記事表示] [検索] [キー登録] [キー検索] [使い方] [保存コード] [連絡掲示板] [がちゃS掲示板] [このセリ掲示板]

こぼれ落ちたSS掲示板とは、まつのめががちゃがちゃSS掲示板に投稿しようとして、
諸々の事情で投稿を断念したSSや文書のカケラなどを保存するために作成したSS投稿掲示板です。
私的な目的で作成した掲示板ですが、どなたでもお気楽にご投稿いただけます。

訪問者数:46473(since:07-07-11)カウンタ壊れた……。

おなまえ
Eメール       がちゃ24 がちゃ3
題  名 key1: key2: key3:
入力欄
URL
編集キー (自分の記事を編集時に使用。英数字で12文字以内)
文字色
記事番号:へ  
 
 

どこまでもボタンの掛け違い  No.117  [メール]  [HomePage]
   作者:まつのめ  投稿日:2007-07-12 01:09:29  (萌:0  笑:3  感:3)  
【Ga:2315】【Ga:2320】【Cb:114】【Cb:115】【Cb:116】
(また長い・パロディとのクロス・混ぜるな危険気味・やっぱりマリみての必然性はない)




  3−2 『物騒な世界へようこそ』



 昨日の次はちゃんと今日だった。
 何のことかというと、16日の夜眠って、朝起きるとちゃんと17日だったてことだ。
 もう既に、時間が戻ったり、薔薇様方の二人までが非常識にも魔法使いだったり、結局また相良宗子は乃梨子の手伝いに収まりそうだったりと、乃梨子の周辺はぐちゃぐちゃな状況だった。
「……あははは」
 ベッドの上で力なく笑う乃梨子。
 これは笑うしか無いだろ。
 由乃さまが未来から来たネコ型ロボットだったとしても驚かない自信があった。


 朝の食卓でのこと。
「『今日は素敵な一日になるでしょう』だってよ。リコの今日の運勢」
 乃梨子が『今日の運勢』に無反応なのを見て、同居人の菫子さんが、そう言った。
「そんなもの当てにならないよ。信じるだけ無駄無駄」
「“良い運勢”は信じるんじゃなかったのかい?」
 というか、以前言ったのは、『一日のうちに良いことも悪いこともあるはずだから、良いことに注目して“良い気分”で一日を過ごせば良いじゃない』という意味のことだ。
 でもいちいち反論する気になれないので乃梨子はこう言った。
「まあそうだけど、今日は別なの」
「良くないのかい?」
「単純に良い日だって喜んでると酷い目あうかもってことよ」
 乃梨子がそう言うと菫子さんは感心したように頷いた後、言った。
「そうかい。じゃ、せいぜい気をつけるんだね」
「そのつもりよ」
 そんな訳で、乃梨子は少々の緊張を伴って学校へ向かったのだった。


 薔薇の館の二階会議室には、『前』そうであったのと同じで相良宗子だけが居た。
「ごきげんよう。朝早いのね」
「……」
 むっつりと睨み返す宗子は、あまり友好的ではないようだ。
 制服を着ているって事は、もう編入手続きは終わったのか。
「それにしても……」
 前回と違い、武装を全部没収したせいか、半袖の制服で見た感じもすっきりしているのだけど、一つだけ頂けないところがあった。
「ちょっと立ちなさい」
「……」
 返事をしないのは不服だからか?
 でも宗子は黙ったまま椅子から立ち上がり、乃梨子の前に立った。
「何処をどうしたらこんな結び方が出来るのよ?」
 そういいながら、乃梨子はねじ曲がった宗子のタイを解き、襟を正して結びなおした。
 結び直す間も、宗子はしかめっ面で乃梨子の顔を見つめていたが、その様子が威嚇するようではなく、むしろ値踏みするような表情だったことに気付かなかったのは乃梨子のミスだったのかもしれない。
「……こんなもんか。座って良いわよ」
 取りあえず、“女子高生らしく見えないことも無い”ことを確認して、乃梨子は宗子に背を向けた。
 他の皆が来ていないので、今のうちのお茶の用意をしておこうと思ったのだ。
 だが、乃梨子は流しまで行くことが出来なかった。
「動くな」
 背後から腕で拘束されてしまったのだ。
「ちょっ……」
 抗議しようとして、乃梨子は声を上げるのを中止した。
「そうだ。大人しくしてもらおう」
 宗子は刃を全開にしたカッターを持っていたのだ。
「な、なによ。こんなことしたって……」
「安心しろ。お前を人質にするつもりは無い。用が済めば開放してやる」
 そう言いながら宗子は乃梨子を捕まえたまま扉に向かった。
「ど、何処へ行く気?」
「まずここを離れる」

 そして、宗子は乃梨子を捕縛したまま薔薇の館を出て、そのまま学校の裏門に向かった。
「いいか、抵抗せずにこのままついて来い。普通を装うんだ」
 周りから変に思われないようにするためであろうか? 宗子は乃梨子の腕に手を回した。
 一見、仲の良い恋人同士風だ。
 ただし、女同士だしこの暑い中なので、間違いなく目立つ。
「逃亡しようとしても無駄だ。カッターなど無くともおまえなど一瞬で締め殺せるんだからな」
「別に脅さなくても付き合うわよ」
 宗子がクソ真面目な人間だってことは判っていた。だから宗子の『人質にするつもりはない』という言葉を乃梨子は信じたのだ。
 ただし『用』とやらがなんなのか判らないので油断は出来ないが。
「ならば、私から絶対に離れるな」
「……それだけで良いのね」
「肯定だ」
 確かに人質をどこかに連行するって感じではなく、ただ腕を組んだまま歩いているだけだった。
 乃梨子には宗子の行動の意味が判らなかった。
 裏門を出た時、宗子が言った。
「やはり、思った通りか」
「な、なんのことよ?」
「どういう原理か判らんが私一人ではどうやっても敷地の外に出ることが出来なかったのだ」
「なにそれ?」
「知らんのか。やはりお前は下級の兵士のようだな」
「兵士なんかじゃないわよ」
「だが、技術は判らなくとも振る舞いが判れば脱出方法も類推できる。昨日の晩から色々試行した結果、この学校の生徒と接触したままなら門を通り抜けられることが判明したのだ」
 それはなんなのだ。祐巳さまが何かしたんだろうか?
「……ちなみに、一人だとどうなるの?」
「離れた瞬間、敷地内に引き戻される」
「……」
 祐巳さまは宗子を拘束すると言っていた。
 でも乃梨子には宗子が逃げ出そうとすることを阻止するよう頼まれた覚えも無いし、自主的にそうする義務もない。
 乃梨子的には「勝手にやってくれ」であった。
(でも、試しに)
 外に出られて油断したのか、宗子の組む腕が緩んでいたので、不意打ちで腕を引き抜いてみた。
「あぁ……」
 その瞬間、宗子が消えた。
 いや、声が遠ざかるのが聞こえたから、急に移動したらしい。
 振り返ると、裏門の向こうに宗子が仰向けで大の字になって倒れていた。
 乃梨子は、慌てて駆け寄り、宗子の横に座って言った。
「……大丈夫?」
「何故、戻ってきた」
「え?」
「行動の目的を話し、腕を緩めたのは私のミスだ。そのまま校外から仲間に連絡すれば私を拘束出来ただろう」
 あくまでも“戦場思考”な宗子に呆れつつ、乃梨子は答えた。
「あのね、私はそういうのと違うの。軍隊じゃないんだから」
「理解し難い。私がお前を基地に連れ去れば、お前は機密を吐かせる為の拷問を受けるかもしれんのだぞ」 
「だって用が済んだら開放するって言ったじゃない」
「敵の言葉を信用するのか」
 乃梨子は宗子の目を見つめて言った。
「……あなたは敵じゃないわ」
「何故そう思う?」
「あなたは、私や学校の生徒に危害を加えるために来たんじゃないでしょ?」
 そう言うと、宗子は今まで逆ハの字に寄せていた眉を少しだけ緩めて眼を見開いた。
「……知ってるのか」
「少しだけね」
「だが私はキミやキミの上官に脅威を感じ、敵対行動を取った」
「それは、任務の邪魔になると判断したからでしょ?」
「そうだ。そして戦力差がありすぎることが判明した。“未知の技術”を使っていることもだ。私を逃がせば私はそれを上官に報告し、我々はその対策を立てるだろう」
「そういう話になっちゃうのね?」
「当然だ。キミは軽率な行動を後悔することになる」
「じゃあ、何で私をまたさっきみたいに脅さないの? まだ持ってるんでしょ? カッター」
 宗子はまだ大の字に寝そべっていた。
「……何故だろう。そんなことはありえないのに、私はキミが何もせずともまた私に協力する気がしてならないのだ」
「ありえるのよ。協力するわ。仲間に連絡したいんでしょ?」
「何故だ」
「私は争って欲しくないだけよ。“貴方達”は学校を占領しに来たの? 私達を殺しに来たの? 違うでしょ?」
「それは違う。少なくともそのような命令は受けていない」
 乃梨子は一瞬、「命令だったらやるんかい!」と思ったが口にしなかった。
 とにかく、
「祐巳さまには上手く言っておくから、あなたは一旦帰ってちゃんと上の人に報告して。多分上の人は祐巳さまが使った『あれ』のこと知ってるはずだから」
 乃梨子は、前に見た志摩子さんとASとかいうロボットのパイロットの会話を思い出していた。
 あのやり取りからすると、既に何らかの『取り決め』があるはずだった。
 だから、乃梨子が思うに今回の騒動は、それを知らされてなかった宗子の暴走だった可能性が高いのだ。


「今度は離さないわ。何処まで行けば良いの?」
 がっつりと腕を組み合って、乃梨子と宗子は再び学校の裏門を出た。
「通信機もマーカーも無い。仲間と合流できなければ、セーフハウスまで戻らなければならないだろう」
「セーフハウスって?」
「ここで寝泊りしている拠点だ」
 要は“家”ってことらしい。
「だが、作戦行動中ならばこの周辺に待機しているはずだ」
「周辺って何処よ」
「判らん。いずれにしても装備が無い状態で、しかも人一人を抱えていては、追手に対処は難しい」
「追手なんて来るの? というか、いつまで腕を組んでいなければならないのかな?」
「それはキミの方が詳しくあるべきことだ」
「まあ、あなたから見たらそうなんでしょうけど……なんなら、試してみる?」
 と、乃梨子は腕を緩めてみた。
 宗子は離すまいと逆に組む腕に力をいれた。
「遠慮しよう。もし、この距離から引き戻されたら、私が無事に済むとは思えない」
「そうね」
 さっき、門から数メートルのところで離した時、引き戻された宗子は大の字に伸びていた。
 どういう仕組みかさっぱりだからどうなるかなんて判ったものじゃないけど、引き戻された反動が距離に比例しないという保障は何処にも無いのだ。
 ここで乃梨子が離れたせいで宗子が大怪我をしたとしても、別に乃梨子のせいでは無いと思うのだけど、やはりそれでは寝覚めが悪いってものだ。

 結局、道行く人に変な目で見られつつ、乃梨子は宗子と『がっつり』腕を組んだまま、バスに乗って、電車に乗って、宗子の寝泊りする拠点まで行った。ちなみに交通費は乃梨子が立て替えた。
 乃梨子は途中で山百合会の誰かに会うことを期待したのだけど、裏ルートとでも言おうか、普段は使わない路線を辿ったこともあり、それは叶わなかった。

「ここなの?」
「肯定だ」
 作戦の拠点とか言ってるから、どんな所かと思っていたけれど、そこは何のことは無い、普通の、まあちょっと上品なマンションだった。
 オートロックを暗証番号で開けてマンションのエントランスホールに入り、先ず、集合ポストの方へ行ってポストの中を改めてから、エレベーターで昇って、廊下を歩いて、一つのドアの前まで来た。もちろん、ずっと腕を組んだままだ。
 二人とも半袖で、肌同士の接触は暑いし汗ばむし気持ち悪かったのだけど、この頃にはもう慣れてしまって気にならなくなっていた。
 ドアの前に立って宗子は先ずドアに触れずに観察した。
「なあに?」
「……中には誰も居ないようだ」
 そして鍵を差し込んでロックを解除。ドアを開けた。
「あれ? 鍵、没収されなかったんだ?」
「これは隠しておいたものだ」
「って、もしかしてさっきのポスト?」
「肯定だ。だが、特殊なトラップが仕掛けてある。こじ開けて鍵を盗ろうとする者は手痛い教訓を得ることになるだろう」
「トラップ!?」
 なんだか、宗子ならやりそうなことだ。


 部屋の隅にダンボール。大半は空箱のようだ。あと飾り気の無い長机に無骨な無線機が積まれ、壁際には、乃梨子には名称も判らないごつい銃器の類がいくつも立てかけてあった。
 およそ生活の場には思えないその部屋で、宗子が先ずしようとしたことは武装だった。
 だけど、ダンボールから拳銃やら手榴弾やらを取り出してから、乃梨子を腕を組んでいて片手が不自由なことに気付き、宗子は武器を取り出した箱から今度は手錠を取り出して言った。
「誤解しないで欲しい。これは拘束する意図でつけるのではない」
「……飛ばされないように?」
「肯定だ。この腕を離すと何が起こるか判らない。そこで、先ず手錠で互いの手を繋ぎ……」
 宗子は組んでいる方の二人の手を手錠で繋ぎとめた。
「そして、腕を解く」
 ゆっくりと、腕をほどいた。

 そして、ずっと接触していて汗ばんだ肌が離れてちょっと涼しく感じたと同時位に、“宗子の姿が消えた”。

「……宗子?」
 乃梨子はまず唖然とした。
 見回せば窓はしっかり閉まってるし、部屋のドアもしっかり閉まってる。
 でも、乃梨子の片手にぶら下がってる手錠のもう一つの輪には誰の手も通っていない。
「な、なんの手品よ?」
 乃梨子はその場にへなへなと座り込んだ。
 順当に考えれば、また宗子は学校に引き戻されてしまったって事だろう。
 どうやら距離や物理的な制約(壁や手錠)は関係ないらしい。
 でも祐巳さまがしたことだ。多分、宗子は無事だろう。
「はぁ……」
 とため息をついた後、また学校に戻るために乃梨子はのろのろと立ち上がった。
 その時。
(……誰?)
 ドアの向こうからかすかに物音が聞こえた。
 思わず声を上げたのはその時、人の気配を感じたからだ。
(宗子の仲間?)
 でも、それなら何故、物音を立てず、気配を殺して進入してくるのか?
(どうしよう……)
 乃梨子はあの誘拐犯のことを思い出した。
 彼らは戦争のプロだった。
 もし、そんな宗子と敵対する者が進入してきたのだとしたら?
 乃梨子は宗子が箱から出して床に並べていった拳銃に目をやり、ごくりと唾を飲み込んだ。
 もちろん、前回のことで宗子のような戦争のプロに対して乃梨子のような素人が敵対した態度を取る事がどんなに危険かを理解していた。
 でも、無抵抗が正しい選択とは限らない。
 ここは宗子の仲間の拠点なのだ。
 乃梨子はただここに居るってだけの理由でで抹殺される可能性もある。
(いやだ。死にたくないよ)
 短い時間に必死で考えた。
(ベランダから逃げる? 駄目。この階からは無理だ)
(手榴弾は? どの位の爆発なのか判らないから却下。下手すると自爆だ)
(そもそも、プロ相手に素人がこの手の物を使って勝てる筈が無いじゃない!)
(ここにあるのは、無線機の乗っていないテーブルがもう一つ。空のクローゼット。窓にはカーテンが無い。手榴弾が一つ。拳銃が一丁。壁は白い。……考えろ! 時間が無い!)
 床がきしむ音がかすかに響く。
 乃梨子は慌てて部屋の隅に行き、積んであったダンボールを手に取った。
 まだ“敵”は動かない。
 多分警戒しているんだ。
(急げ!)
 乃梨子の“準備”はなんとか間に合った。
 唐突にドアが音を立てて開き、何者かが飛び込んできた。
 ドアの前には“ピンを抜かない手榴弾”。
「うぉぁ?」
 その何者かは、奇矯な声をあげ、一瞬、部屋の奥の乃梨子が仕込んだダンボールの方に銃を向けたまま動きを止めた。
 手榴弾にピンが付いていることを確認する一瞬の間。
 その瞬間に乃梨子は叫んだ。手には宗子の残していった拳銃がある。
「う、動かないで!」
 ドアのすぐ横の壁に張り付いていた乃梨子は“彼”より先に銃口を相手に突きつけることに成功した。

 全くの賭けだった。
 乃梨子はまず、入り口から見て部屋の奥に空のダンボールを積み上げて、脱いだ制服をさげたのだ。これは何者かが飛び込んで来た直後、銃をそちらに向けさせるためだ。
 そして、下着姿になった乃梨子は少しでも髪の毛を隠すためにハンカチを頭に乗せてドアのすぐ横の壁際に移動した。
 それから、宗子のような人種ならば、足元の手榴弾に目が行くと思い、注意を逸らす仕掛けその2として、手榴弾をピンを抜かずにそのままドアの前に転がした。
 ここまでの準備をするまで“彼”が飛び込んでこなかったのは幸いだった。そして、進入してきたのが彼一人だったことも。
 それでも、部屋に飛び込んできた男が先ず最初に人の気配に反応したら、乃梨子は終わりだった。
 だが、“彼”は先に乃梨子の用意した仕掛けに反応してくれた。壁が白く、リリアンの制服が黒かったことが功を奏したのかもしれない。


 彼は、ゆっくりと乃梨子の積み上げたダンボールから、下着姿の乃梨子に視線を移動して言った。
「これは驚きだ……」
 金髪ロンゲにブルーの瞳、その長身の男はどうみても西洋人なのに、出てきた言葉は日本語だった。
「じゅ、銃を捨てなさい!」
「……判ったよ」
 なにやら困ったような、しかし軽薄で余裕のある表情で、そう言って彼は銃を放り投げた。
(こいつはプロだ。私なんか簡単に殺されてしまう。こうして銃を構えていても無駄かもしれない……)
 否定的な思いがいくつも浮かんで手が振えた。
(怖い……)
「んで、どうしたら良いのかな? 仔猫ちゃん?」
「動かないで!」
「それから、その銃、薬室に弾を装填してないだろ? それじゃ撃てないぜ」
「え?」
 乃梨子が焦って目を逸らした瞬間、“彼”は乃梨子から銃を取り上げてしまった。
 一瞬のことで、彼がどうやって乃梨子の手から銃を奪ったのかさえ判らなかった。
「……あ」
(殺される)
 膝の力が抜けて、乃梨子はそこに座り込んだ。
 彼の目の中に、なにかいやらしいものを見つけ、乃梨子は絶望した。
(やっぱり無理だったんだ。きっと、犯されて、その後、殺される)
「い、嫌っ……」
 乃梨子は頭を抱えてその場に蹲った。
「おっ、おい。これじゃ俺が悪さしたみたいじゃないか?」
 そんな言葉が聞こえた直後、第三者の足音がして、そして沈黙。
 乃梨子は恐ろしくて顔を上げらずにじっと震えていた。
「……クルツ、てめえ!」
 女の声がした後、鈍い音。奇妙なうめき声。どたん、という床を叩く音。
 それが、部屋に入ってきたもう一人の人物が、男を殴り倒したんだと気付いたのは、
「ま、待て、誤解っ……ぐぇっ!」
 クルツと呼ばれたその男が後から入ってきた女の人にマウントポジションを取られてぼこぼこにされた後だった。

「……だから誤解」
「何が誤解だ。この状況はどう見たってお前が女の子を連れ込んで無理やりあーんなことやこーんなことをしたようにしか見えないじゃないか!」
「だからそうじゃない! この子は俺が部屋に戻った時、すでにこの格好でここに居たんだよ」
「あのなあクルツ。つくんならもう少しマシな嘘を付け!」
「嘘じゃない! 俺は部屋に侵入者が居たから警戒して踏み込んだんだ。そうしたら……」
「下着姿で、手錠を腕にぶら下げた女の子に、銃を突きつけられたってか?」
「おうよ。その通りだ。流石の俺もびびったぜ。あはははは……」
「なるほど、そりゃ災難だったなぁ、はははっ……」
「……」
「……」
 と二人は引きつった笑顔で笑っていたが、
「……一度死んでみるか、ああ?」
「ね、姐さんそれシャレになんないから」
 女の人は彼女がクルツと呼んだ男の頬に銃を押し付けた。
「まったく、私の部隊から性犯罪者を出すとは非常に残念だよ。まあ心配するな。作戦中の殉職なんて良くある話だ。始末書一枚で終わりだ」
「だーっ、俺は無実だーっ! まず周りの状況をよく見れくれ!」
「ああ?」
 女の人は周りを見回した。
 部屋の奥には高く積み重ねられたダンボール。それに巻かれた黒いセーラー服。
「……確かに、強姦の現場にしちゃ、ちとシュールだな」
「この子がやったんだよ。そうだろ?」
 男は急に乃梨子に振ってきた。
「……え?」
「そうなのか?」
 金髪男を押さえつけたまま、女の人も乃梨子の方を見た。
 彼女は東洋人っぽい黒髪をショートボブに段をつけようとして切りすぎた様な髪形にしていた。
 瞳の色も黒。その射抜くような目には、どこか宗子と似たものを感じる。
 乃梨子は声が出せず、うんうんと頷いた。
 それを見た彼女は言った。
「……あんた、ここで待ち伏せしてクルツに銃を向けたの? まさかね。どう見ても素人だし」
「いやホントだって。オレはあの囮にまんまと騙されたんだ。この子が銃の撃ち方を知っていたらやばかったぜ」


 結局、この二人は宗子の仲間だった。
 金髪長身の男はクルツさん。東洋系の女の人はメリッサさんと言った。
「……素人の予測できない行動が、時として熟練者の脅威になるってか?」
「まあ、そんなところだな?」
「何を偉そうにしてる。クルツ、お前は反省しろ」
「そりゃないぜ、マオ姐さん。ここはこの子の度胸を褒めるとこだぜ」
 説明には時間を要したが、なんとかこの二人には乃梨子の立場を理解してもらえた。
 途中で乃梨子が『勝手に他人の家に上がりこんで下着姿で人を襲う痴女』であると疑われたりと色々あったりはしたが。

「クルツ、お前この子がテロリストだったら死んでたな」
「殺意があれば気付いてたさ」
「どーだか」
 彼女の視線の先、クルツさんは自分で彼女、メリッサさんに殴られた傷を手当てしていた。
「す、すみません。私のせいでこんな」
「いいや、あんたの対応は正しい。こんな奴には一発ぶち込んでやれば良かったんだ」
「おいおい……」
「いいか、この銃は撃つ前に先ずこうして確認して、装てんされてなかったらスライドを引いて弾を……」
 冗談の延長なのか、本気なのか、メリッサさんは拳銃の撃ち方を教えてくれた。

 宗子が拘束されている状況については、祐巳さまのやったことを見たまま話したが、特に疑われなかった。
 というか、やはり『知っていた』のだ。
 “あの系統”の力を使う人間の総称と一個人を指す名称として、彼らはそれを“WITCH”と呼んでいるそうだ。魔女という単語と何か長い名称の略を兼ねているとか。
 ついでに乃梨子も“WITCH”かどうか聞かれたが、乃梨子は当然、「違う」と答えた。

 さて、コーヒーを淹れてもらって、ようやく落ち着いたところで、乃梨子は言った。
「あの、そろそろ帰って良いですか?」
「今、報告書いてるからそれが終わるまで待ってくれる?」
 書いてる? そういう報告の類は一日の終わりに書くのではないか?
 と思ったが、つまり今、書いてるってことは……。
「もしかして、私のことですか?」
「んー、一応、侵入者だからね。さっき連絡したら、うちのボスが判断するから文書でくれって言ってるのよ」
 このとき乃梨子は、その“ボス”が乃梨子に興味を持ったってことに気付くべきだった。
 いや気付いてもどうにもならなかっただろうが、それでも、もう少し心の準備ができていれば違った結果になったかもしれない。
 乃梨子はこの人たちは宗子と違って“常識が通用する”と思い、迂闊にも気を許してしまっていたのだ。
 その時、メリッサさんはノート端末に向かって打ち込んでいたが、乃梨子はそれを眺めながら「まあいいか。まだ時間は早いし」などと、ぼんやり考えていた。


 どの位経過しただろう。
 クルツさんは大分前に出て行ってしまって居なかった。
 メリッサさんは通信で誰かと話したり、端末に打ち込んだりしていたが、しばらくして乃梨子の方へ来てにこにこ笑いながら言った。
「ねえノリコ、うちのボスが話をしたいって。ちょっと出てくれる?」
「は?」
 メリッサさんは、レシーバーを乃梨子に差し出した。ヘッドホンにマイクが付いたやつだ。
 こんなもの使ったことが無いので、取りあえずかぶるように装着し、「もしもし?」と言ってみた。
『ニジョウノリコさんですね?』
 聞こえてきたのは、女性の声だった。しかも結構若そうだ。
「あ、はいそうですけど」
『私はテレサ・テスタロッサ。そこに居る隊員の上官です』
「あ、はじめまして」
『あまり時間が無いので簡潔に用件を言いますね』
「はい?」
『実はあなたを拘束することになりました』
「え?」
『つきましては、メリッサと一緒に私のところに来てもらいます』
「えっと、ちょっと待ってください。拘束って?」
『はい。いくつかお聞きしたいこともありますし。大丈夫ですよ。尋問は私が直接行いますから、非人道的な方法は絶対行いません』
 尋問? 非人道って!?
 そんな言い方をされると余計に怖くなるではないか。
「ま、待ってください! 私は宗子に協力してここに来ただけなのに、なんで拘束なんてされなければならないんですか?」
『ノリコ……? ああ、相良軍曹のことですね。あなたを拘束する理由はその相良軍曹に関することです。詳しい話は会ってからしましょう。じゃあメリッサ、お願いね』
「あ、ちょっと……!」
 メリッサさんも別のレシーバーで対話を聞いていた。
「……悪いけど、そういうわけなの」
「どういう訳ですか!」
「あとで直接テッサに聞くのね」
「テッサ?」
「あの子の愛称よ」
 上官を『あの子』呼ばわりか。どういう組織なのだ。
 聞くと、『会えば判る』だそうだ。

 結局、問答無用で乃梨子は連れ去られることになってしまった。
「大人しくしてくれるなら手錠はしないけどどうする?」
「逃げませんよ。ただの女子高生が戦争のプロに敵うはず無いじゃないですか」
 ふて腐れ気味に乃梨子がそう言うと、メリッサさんは言った。
「まあ、そんな顔しないで。ちょっとしたバカンスだと思えば、きっと楽しいわよ」
 『拘束する』って言っておいて、今度は笑顔で『バカンス』とか言ってるし。
 でも乃梨子はその言葉の持つニュアンスが気になって聞いた。
「何処まで行くんですか?」
「あたしらの秘密基地。良いところよ」
「それって海外なんですか?」
「国内じゃないけど、パスポートはいらないから心配しないで」
「いえ、そういうことじゃなくて、私はどれくらいそこに行ってる事になるのか聞きたかったんです」
「ああ、ちょっと遠いから、最低一泊は覚悟しといた方がいいかもね。でもテッサ次第よ。あたしは連れて行くだけでその後のことは聞かされていないわ」
 予想するに、ちょっとした旅行に行くような距離なのであろう。
 今、乃梨子は下着に制服一枚。炎天下を宗子に引っ付いて歩いてきたから結構汗をかいている。そして持ち物は薔薇の館から宗子に連れ出されてそのままだから、制服のポケットに入っていたハンカチと財布だけ。
「……一回家に帰って着替て来ちゃ駄目ですか?」
 それに着替えとか宿泊の用意とかもしたい。
「それは許可できないわ。もう合流時間まで間が無いの」
「じゃあ、換えの下着とかも無しで一泊以上させるつもりですか? あなたも女なら判りますよね?」
「下着や生理用品くらいなら基地の購買にあるわよ」
「そういう問題じゃありません!」
 思わず大声を出してしまったが、それに対してメリッサさんは面倒くさくなったように、不機嫌そうな声で言った。
「あのなあ、おまえ、拘束されてるってこと自覚しろよ? あたしは別に……」
 そこまで言って、乃梨子が怯えていることに気付いて表情を戻し、「ああもう、やりづらいったら」と呟いてから、今度は優しい声でこう言った。
「……着替え、クルツに買いに行かせてるから」
「え?」
「悪いけど、家族や学校の関係者に会わせるなって命令なのよ。服はクルツの見立てになっちゃうけど我慢して」
「あ、あの……すみません」
 ずるい。と乃梨子は思った。
 意図的ではないんだろうけど、凄まれて『本気を出されたら抵抗できない』って実感させられた後、そうやって実は気を遣ってくれてるって態度を見せられたら文句を言えなくなってしまうではないか。


 空港、といっても羽田とか成田のような大きい所ではなく、調布の飛行場で、クルツさんと合流した。
「……もっと実用的な服買えよな」
 クルツさんの抱えていた袋を取り上げて、中を覗いたメリッサさんはそう言って彼を小突いた。
「やっぱり、女の子は可愛く着飾らなきゃな。これ絶対ノリコに似合うぜ」
 メリッサさんの横から覗いていた乃梨子は、袋から引っ張り出された、柄物でひらひら系で装飾にリボンまで付いたワンピースを手渡されて、まず絶句した。
 だが、乃梨子への試練はそれだけに留まらなかった。
「……あ、あのー。この高そうな下着は?」
 袋の中には、見るからに高級品、というか“装飾が豊か”な下着まで入っていたのだ。
「おう。サイズは合ってる筈だぜ。何しろ“直接”見たからな」
 そりゃ、下着姿、見せましたけど……。
 乃梨子がワンピースを抱えて顔を赤くしている間に、メリッサさんがクルツさんを殴り倒していた。
「ったく、東京の物価を考えろ。予算オーバーだろうが」
「そんな目くじら立てるようなモンじゃねえだろう? 兵装と比べりゃ屑みたいなもんだし」
「経費で落ちなかったらお前自腹な」

 二人の気の合ったやり取り(どつき合い?)に結局、服を遠慮するタイミングを逃してしまった。
「じゃ、クルツ。アタシはノリコを送り届けてくるから、あとは頼んだよ」
「おう、任せとけ」
 そしてメリッサさんは、それこそ近所のコンビニに買い物に行くようなノリで小型機に乗り込んだのだけど、旅程は乃梨子の予想をはるかに上回り、最初の小型機で約三十分。プラスどこかの島で別の飛行機に乗り換えて更に二時間半に及ぶ空の旅だった。


さんたろう > FMPにMSLNとCCS(ルルニャン)ですか〜、大丈夫、まだ憑いていけます(笑)由乃も魔法少女なのかな。はっ、あれか?「マジ狩るクラッシャー☆ミラクル由乃、お呼びとあらば、悪即斬!!」 (No.1492 2007-07-12 13:36:44)
まつのめ > コメントどうもです。そろそろ読者様置いてきぼり度が高くなってきたかなと思った矢先のコメントなのでとても嬉しいです。 (No.1493 2007-07-12 22:49:42)
素晴 > 乃梨子はどこへ連れて行かれたのか?敵の狙いは?逆行の謎は明かされるのか?次回、「人を殴ってなんぼの商売恋のロサギガ伝説ブラックオーラ」に、乾坤一擲!
ところで由乃さんマジ狩るってコメントで思わず「笑った」を押しそうになりました。ミラ狂由乃ん。 (No.1494 2007-07-14 22:47:59)

読者A > なんかいろいろ混ぜこぜだけどとにかく面白い(笑) (No.1527 2009-09-29 23:07:38)
読者A > ってこれで終わりかい!2年前じゃもう打ち切りなのかな・・・残念。続き読みたいです。 (No.1528 2009-09-29 23:08:59)
名前  コメント  削除パス  文字色 私信
- 簡易投票 -

   
   
△ページトップへ
 
 

 

記事No/コメントNo  編集キー
  




- CoboreOchita-SS-Board -