世界につながる混ぜるなきけん No.114 [メール] [HomePage]
作者:まつのめ
投稿日:2007-07-06 03:16:29
(萌:2
笑:1
感:0) 更新日:2007-07-07 22:44:38
【Ga:2315】→【Ga:2320】→ リハビリSSだからとっとと終わらすつもりだったのに、色々突っ込みすぎました。 ※かなり好き勝手やってるので、しっとりマリみての世界を楽しみたいと思って来た方は飛ばしてください。 (やたら長い、パロディとのクロス、でもなんか混ざってる、ちっともマリみてじゃない) ↑と書いたのですがやっぱり好き勝手しすぎなのでこっちにしました。
2−2 『二条乃梨子と自由すぎる仲間達』
相良宗子が薔薇の館に現れた日の午後。 今は夏休みの自主登校なので、朝から事務仕事に励んでいたが、その一日の仕事が一段落して、皆でお茶を楽しんでいる時だった。 志摩子さんが言った。 「乃梨子。今日は何処かに寄って行くのよね?」 「え? う、うん」 乃梨子の浮かない顔に、志摩子さんは心配そうに言った。 「何か問題でもあるの?」 「べ、べつに無いよ……」 といいつつ、隣でまだ整理した書類を真剣に見つめている相良宗子に視線をやった。 乃梨子は今日一日彼女の面倒を見ていたのだ。 今日判ったことは、彼女は基本的に真面目だってこと。ただし、常識を知らないというか、世界が違うというか、仕事を教えるにも申請書に書いてある言葉の一つ一つまで教えなければならないことが多々あったりして中々仕事が進まなかった。 おかげで乃梨子は今ちょっと疲労気味なのだ。 それと心配事が一つ。 「早めだけどもう今日は終わって良いんだよね?」 「ええ、何処かへ寄るには丁度良いわ」 「……だよね」 と、またちらりと宗子の方を見る。 そんな乃梨子を見て志摩子さんは「あら」と言って花が咲いたように微笑んだ。 「相良さんも誘って良いわよ?」 「え? いや、そういうつもりじゃ……」 逆なのだ。 乃梨子は相良宗子が付いてくることを危惧していた。彼女が一緒に来たいと言った時、どうやって断ろうかと悩んでいたのだ。 だがその心配は杞憂に終わった。 宗子は乃梨子に向かって言った。 「私にはまだ仕事がある。最後に出るから戸締りは任せてくれ」 「え? 他に仕事なんて頼んでないわよ」 「“修繕”だ。まだやり残しがある」 「あ、そっちか」 取りあえず、乃梨子は安心した。
後片付けを終えて乃梨子は志摩子さんと一緒に薔薇の館を出た。 宗子以外の他のメンバーは、昨日のことがあって気を利かせてくれたのか、もう少しだけ残っていくと言っていた。 そういうわけで、今は二人きり。 まだ日も高く、並木道には銀杏の木々が色濃く影を落としていた。 志摩子さんが「ふふ」と何かを思い出したように微笑んだ。 「どうしたの?」 「ううん、不思議だなって思って」 「なにが?」 「こうして何処かに寄るために誰かと下校するのが、よ」 よく判らなかった。 「それって“普通”のことじゃないの?」 「ええ、今は乃梨子だけじゃなくって祐巳さんや由乃さんにも誘われることもあるわ」 「それが不思議なの?」 「ええ。一年生の時は考えもしなかったことだから」 「あ……」 「それが今はごく“普通”のことになっているの。とても不思議」 「志摩子さんは変わったってことかな?」 「ええ、そうね。乃梨子はどう?」 「どうって、『変わった』かってこと?」 「そうよ」 乃梨子は一番最近に電話で中学の友達と話したことを思い出して言った。 「どうかなー、中学時代の友達は『変わった』って言うけど、よく判らないや」 「そう……」 そんな会話をしつつやがてマリア像のある三叉路に差し掛かり、二人で並んでお祈りをした。 お祈りを終えて、マリア像に向かったまま、乃梨子は思いついたことを志摩子さんに話した。 「きっとさ。人って本人も知らないうちに変わっていくんだろうね。いろんな人に出会ってさ」 「そうね」 「それで、ふと気が付いて思い起こしてみると変わっていた、なんて」 確かに乃梨子も入学したての頃と比べれば変わっているのだろう。 それは学校に慣れたってだけではなく、もっといろいろな面で。 その変化は、しばらく会っていない人じゃないと判らないくらいゆっくりしたもので、でも 確実に変化していってある日突然発覚したりするのだろう。 って、なんか話がそれているような……。
「あれ?」 乃梨子が振り返ると、志摩子さんが一歩進んだところで背中を見せたまま立ち止まっていた。
世界が本格的にほつれを見せ出したのは、思えばここからだったのかもしれない――。
「……志摩子さんどうしたの」 「さがって!」 「え?」 志摩子さんの横に並ぼうとした乃梨子は手で制された。 「……なに?」 志摩子さんはまっすぐ並木道の前方を睨んでいた。 乃梨子も前方を眺めたが、両側に緑の葉を揺らす銀杏の木が並んでいるだけで、そこには人はおろか犬猫もハトも雀も居なかった。 でも志摩子さんに目には尋常ではない真剣さが込めてられていた。 「ど、どうしたの?」 「静かに。ここを動かないで」 「で、でも……」 「いいからお願い、いえ命令よ。ここから一歩も前に出てはだめ」 「め、命令? なんで……」 と、乃梨子が答えを聞く前に、志摩子さんが手を振り上げて叫んだ!
「レイジ●グハート、セットアップ!」 「って、ちょっと待てぇーーーーっ!!」
……待ってくれませんでした。
そのあと、赤いビー球が杖になって、それがなにか“英語っぽい言葉”で喋ったり、空間に円形の魔方陣みたいなのが出てきたり志摩子さんが一瞬裸になったように見えて乃梨子が鼻血を噴いたり、ちょっとその歳でその服装はどうなのって格好になったりしたのはこの際、些細なことだった。 事はそれよりも、もっととんでもない事態へと推移を見せていったのだ。
“痛い装備”の――いや乃梨子的には、可愛いから二人きりで楽しむ分には全然OKなのだけど、人前に出るにはちょっと考え物な服装の――志摩子さんが“赤い球体の付いた、英語っぽい言葉を喋る杖”を手にして今、睨みつけているその先の空間が一瞬、陽炎のように揺れた。 「ECS不可視モードのようね。でも無駄よ……」 「し、し、し……」 「乃梨子、落ち着いて」 目まぐるしくあんまりな展開に既に尻餅をついていた乃梨子は何とか次の台詞を搾り出した。 「よ、余裕があるなら説明して欲しいんだけど……」 「このデバイスは時空管理局の戦技教官から拝借、いえ授かったものなのよ。なかなか有能で使えるわ」 ――いや、そういうことを言われても全然判らないんですけど?
「いきましょうか?」 『Shooting mode.』
「おわっ! は、羽!?」 “英語っぽい言葉を喋る杖”の頭のところが明らかに物理法則を無視して変形し、いや、物理法則は既に無視しまくっているから今更だけど、更にその両側に白い羽が生えた。 そして志摩子さんを中心に足元の地面にまた図形や文字を組み合わせた魔法陣?らしきものが現れた。 杖は赤い球のついた頭の方を前方のさっき陽炎が立った方に向けられていた。 その杖の先、少し離れた空間に光の球が現れ、なにやら力を溜め込むようにみるみる大きくなっていった。 『ガッ……ザーー』 と、その時、スピーカーからもれる雑音のような音が銀杏並木に響いた。 「一体何処から?」と乃梨子は辺りを見回したが、それらしきものは見当たらない。あえて言うなら前方の陽炎が立った辺りの何も無い空間から聞こえているように感じた。 その『声』は言った。 『あー、そこのWITCH、その規模のエネルギー弾は条約違反だ。直ちに発動を中止せよ』 女性の声らしかった。志摩子さんはそれに答えて言った。 「いいえ。学園敷地内へのAS(アーム・スレイブ)での進入こそが重大な違反です。安全確保の為に実力排除を最優先にすることは条項に含まれています」 相手に聞こえているんだろうか? もう完全に乃梨子にはついていけない展開だ。 『何事にも例外って物はあるのよ! とにかく止めろっての! 話を聞きなさい!』 「ASでの進入は宣戦布告とみなします。問答無用です」 『ああもうっ! なんて頭のカタイ小娘なのかしら!』 なんてやりとりをしているうちに、志摩子さんの前の光の球はもう乃梨子が見ても“ヤバそう”と判るくらいに巨大なものになっていた。さらに地面以外にも魔法陣らしきものが軌道に沿って二重三重の輪っかで現れているし。 もう、何処につっこんだら良いやら。 「さ、流石、志摩子さん。強そうだ……」 と、呟くのがやっとだった。
『Divine buster』
“杖”がそう呟き、光球が発射された。というかビームっぽく伸びていった。 乃梨子はそれが発射される直前に、揺らいでいた空間にいきなり大きな人型のロボット(?)が現れるのを見た。 そのロボットは、一旦姿勢を低くしてから、ぎりぎりのタイミングで跳び上がり、志摩子さんのビームを避けた。 「上っ!」 『なにぃ! 曲った!?』 志摩子さんが杖を振り上げると同時に、ビームも上に“曲がった”。 だが、軌道が甘く、ロボットは身を捻ってビームをかわしそのまま、並木道上のかなり遠くに着地した。 一方、空中に向かったビームは大きく弧を描いて再びロボットに襲い掛かった。 が、ビームが戻ってきた時、既にロボットはこちらに向かってダッシュしていた。
『Protection』
“杖の声”が聞こえた。 一瞬、接近するロボットの足音が聞こえなくなり、直後、激しい振動に見舞われた。 志摩子さんを中心に乃梨子も覆って半球状に半透明のバリアのようなものが出来ていた。 振動で地面に投げ出された乃梨子はそのバリア越しにロボットが後方に向かって飛び越えて行くのを見ていた。 「やられたわ」 「志摩子さん?」 「警告のつもりでバインドはかけなかったのだけど、こんな風に反撃されるなんて……」 どうやら、あのロボットの操縦者はビームが軌道を変えて追尾するのを利用して、上手くそれを放った志摩子さん自身に誘導したらしい。 志摩子さんはロボットが去った方向を見上げて言った。 「あのパイロット、なかなかいい腕してるわ……」 確かに、ビームが追尾すると判った直後の判断であの行動が取れるなんて尋常ではないだろう。
っていうか、
「今のはなに!? あのロボットは? その杖は? なんで志摩子さんはそんなこと出来るのよ!?」 ASとかエネルギー弾とか条約とか安全保障とか、あとECSとか、わからない単語のオンパレードだった。ええと、WITCHて魔女? 「乃梨子は知らなくて良いことよ」 「って、この状況で?」 既にバリアは消えていたが、志摩子さんの周りの直径数メートルを残して当たり一帯は地面が抉れ、並木はなぎ倒されて、悲惨なことになっていた。 もうロボットが戻ってくる気配はない。 「あ、あの志摩子さん?」 「……人は知らないうちに変わっていくものなのよ」 「って、変わりすぎだよ、おい」 「そして、ある時突然それが発覚するのね。乃梨子の言うとおりだわ」
って、これは違う。 絶対違う――。
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2−3 『乃梨子は物騒な少女と再会した』
さて、気を取り直して、志摩子さんと寄り道だ。 乃梨子は志摩子さんと一緒に駅に向かうバスに乗っていた。
今日はとても“いい日”なのだ。 マリア像でお祈りの後、志摩子さんが立ち止まってからの数分間の出来事なんて知らない。非現実的な出来事なんて何も無かったのだ。 その証拠に志摩子さんはいつもと同じように微笑んでいるではないか。
いや、それほどまでにあの校門に至る途中のほんの数分の出来事が、普段の日常と比べて異質だったってことなんだけど、乃梨子は、あれは夏の暑さが作り出した白昼夢、灼熱した並木道に浮かんだ幻影だったと思うことにしたのだ――。
「志摩子さん」 「なあに?」 ああ、志摩子さんの春の花のような微笑は乃梨子の心を癒してくれる。 「まずは、アイスクリームだよね」 「ええ、そうね」 「それから、服を見に行って」 「水着でしょう?」 「うん、でも今年は着るチャンス無かったんだけど……」 今年は結局プールにも海にも行くチャンスが無く山百合会の自主登校が始まってしまったのだ。 「土日ならまだ行けるでしょう?」 「そうだね。でも志摩子さん受験は?」 「大丈夫よ」 「余裕?」 「そうでもないのだけれど、選択肢が増えたから」 「選択肢?」 「実はある方と縁ができて、そこで働かないかって誘われてるの」 「へえー。つまりコネ?」 「ええ」 「でも高卒で働くのってきつくない?」 「そうでもないわ。そこは完全に実力主義だから。適性ももちろんあるのだけど、経験を積んで実力をつければ上がっていけるし、その道も用意されているって聞いたわ」 どんな職場なんだろう? 乃梨子は想像が付かなかったが取りあえず「よさそうな所だね」と答えた。 だが。 「でも、この世界じゃないところが悩みどころかしら」 「……ふ、ふうん」 乃梨子の心の奥底で、なにやら警報が鳴り出していた。 そんな乃梨子の内情を、知ってか知らずか志摩子さんは話を続けた。 「帰ろうと思えば簡単に帰ってこれるのだけど、こちらには施設が無いのよ。本格的に学ぶなら向こうへ行くしかないのかしら……」 「む、向こうって? どんなところなの?」 「時空管理局のお仕事よ。最初は研修生からなのだけど……」 ……“魔法少女”の就職先なんだそうです。 そ、そうですねぇ。志摩子さんも大変なんですねぇ……。 ここで、奇声をあげて暴れたり、頭を抱えて道の隅で体育座りする事なく、(引きつった)笑顔を保っていたことを褒めて欲しい。 乃梨子は『常識』という名の乃梨子の中に根づている意識から湧き上がってくるある種の衝動に耐えていたのだ。なんか頭の中がぽやぽやする。
そのとき『次は終点』というアナウンスが入り、バスは駅前のロータリーに停車した。 乃梨子は一瞬、このまま電車に乗りかえて家に帰ろうかなとも思った。 でもそれは『逃げ』だ。 『志摩子さんとのデート』からに逃げるなんてことは、乃梨子においては絶対にあってはならない。 これは、これだけは変わらない変えてはいけない、乃梨子の『常識』であり『正義』であった。
……その筈だった。
「並んでるね」 アイスクリーム屋さんの中は店の外から判るくらい混雑していた。 「ええ、そうね」 「志摩子さん?」 何故か志摩子さんはここから見える建物の屋上を見上げていた。 「いいえ、何でもないわ。私達を観察しているわけではないようだし」 「?」 乃梨子は何気なく志摩子さんの見ていたほうを見上げた。 「なっ!」
その瞬間、乃梨子は“目が覚めた”。 頭の中の『ぽやぽや』したものが収まり、なにやら異常な事態に遭遇していることを思い出した、いや再認識したのだ。 そして乃梨子の周りを覆っていた何かが消え去り、五感を通して現実の鋭さがストレートに心に入ってくる感覚がした。 いや、これが“いつもの”自分だ。 自分を偽るなんて乃梨子のキャラじゃない。 乃梨子はいつも正しく突っ込みであるべきなのだ。
「乃梨子、騒いでは駄目よ」 「だ、だってあれ……」 それに指を向けようとしたら、志摩子さんに手を押さえられ、「駄目よ」と目だけで諭された。 (な、なんなのあれ?) (気にしちゃ駄目よ) (だって……) 「ほら乃梨子、列がすいたわ」 「え? ああ本当だ」 取りあえず志摩子さんが急かすので、店に入り乃梨子は抹茶とチョコミントのダブルを、志摩子さんはバニラとストロベリーチーズを注文した。 「席があいてるわ。座りましょう」 「……う、うん」
で、取りあえず対面に座ったのだけど……。 「……志摩子さん。さっきのあれ、なんだか知ってるんだよね」 「知らないわ」 「嘘! さっきのことも私に“何か”して忘れさせようとしたでしょ?」 「ここは知ってても『知らない』っていうのよ」 「志摩子さんっ!」 「乃梨子は長生きしたくないの?」 「……」 どこかで聞いたような台詞を聞いて背筋がぞっとした。 それでも、怯まず「姉妹の間に隠し事は無しでしょ」とばかりに、乃梨子は聞いた。 「……で、でも鳥が浮いてたんだよ?」 「鳥は空を飛ぶわ」 「じゃなくて、あのハト、翼をたたんで止まってたわ。何の支えも無い空中で」 「気のせいよ」 「だって、志摩子さんも見てたじゃない」 志摩子さんはちょっとだけ困ったように首を振ってから言った。 「乃梨子には“見えなかった”だけよ。何の不自然さもないわ」 ……やっぱり。そうだったんだ。 乃梨子は志摩子さんがちょっと前に言った言葉を口にした。 「……“ECS”だっけ? 物体を見えなくする技術かなにかでしょ?」 乃梨子は『糸口を掴んだ』と思った。 もう一息だ。志摩子さんも話す気になってきたみたいだし……。
(あ、でも、ちょっと待って……)
ここまで追求しておいてアレだけど、乃梨子はハタと気付いた。 もしかして、今後も平穏な学園生活を送る為には、志摩子さんの言う通り“見なかった聞かなかった私は何も知りません”ってことにして、妙な好奇心を出さないほうが良いのかも……。 というか、一回は“無かったこと”にしようとしてた反動もあって、つい勢いづいていたのだけど、ふと冷静になって、また『ごっつう嫌な予感』がしてきたのだ。
(……まずい。きっと今ならまだ間に合う。引き返すべきだ)
転身を決めた乃梨子は強引に話題の転換を図った。 「あー、ええと、ごめん。多分、エキストラチョコレートストロベリーの略だよね。あはあは、あはは」 「あら、そうだったの?」 少々無理があるような気はするのだけど、志摩子さんが柔らかく微笑んでくれたので、上手くいったのであろう。 というかこれは、“暗黙の了解”って奴だ。 よし上手くいった。 「そうそう、そのECSってのは――」
が。
「――そういう単語は余り口にしない方が良い」 唐突に、見当違いの方向から、声が聞こえてきた。 乃梨子の隣からだ。この声は聞いたことがあった。 女の子にしては低めのトーンで、特徴的なこの話し方。 振り返ると隣のテーブルには、ザンバラ髪の少女が乃梨子と丁度隣になる席に、視線だけ乃梨子の方へ向けて座っていた。 (な、なんでこの子が!?) 乃梨子は頭を抱えた。 「……こういう場所では誰が聞いているか判らないからな」 そんなことをしかめっ面でほざく人間は一人しか居ない。昨日は乃梨子を銃撃しただけでなく、地面に組み伏せた上、拳銃を突きつけて脅迫までし、今日は性懲りも無く薔薇の館に現れて、ちゃっかりお手伝いとして薔薇の館にもぐりこみ、あまつさえ指導係として乃梨子が付くことにまでなってしまった、事務仕事が苦手な軍事オタク、相良宗子(さがらのりこ)であった。 服装はいつ着替えたのか、昨日会った時と全く同じ、暑苦しい出で立ちに戻っていた。 (……やっぱり、帰っていいですか?) もちろん志摩子さんを前にそんなことは出来ないのであった。
「ごきげんよう。もう“仕事”は終わったのかしら?」 志摩子さんは彼女にそう聞いた。 「はっ。完了しました」 「そう。お疲れさま」 「恐縮です」 この時点で、乃梨子の『ごっつう嫌な予感』は『めっちゃヤバイ雰囲気』に変わっていた。 もちろん志摩子さんは普通に微笑んでいるし、宗子も仏頂面だけど普通に話をしている。 客観的に見れば何の問題も無い普通にアイスクリーム屋で見られる光景である。いや、宗子の服装を除いてだけど。 志摩子さんは柔らかく微笑みながら言った。 「今は“任務中”かしら?」 「何のことでしょう? 私はアイスクリームが食べたくなったからここに入っただけです」 宗子の言ってることは明らさまに嘘っぽかった。 実際、テーブルの上にアイスなんか存在していないし、どういうつもりなのか乃梨子が振り返ったときからずっと正面から顔を隠すように古いスポーツ新聞を立てていた。 志摩子さんが言った。 「そうそう、さっきあなたのお友達に会ったわ。多分間違いないと思うのだけど」 (って、さっきのロボットのこと? あれって相良さんの関係なの!? というか志摩子さんは何で判るの?) 「はて? 心当たりがありません。それに私は私の友人をあなたに紹介した覚えはありませんが」 「あらそうだったわね。今のは忘れてくださいね」 (な、なんなのよ、この会話は?) 乃梨子は得体の知れない圧迫感(プレッシャー)を二人から感じた。 「了解しました」 「ありがとう。ところであなたの“ご友人”は“悪戯好き”なのかしら?」 「いいえ、技能も高く真面目で職務に忠実な良い友人です」 「それは頼もしいお友達ね。羨ましいわ」 「……恐縮です」 (……あれ?) 乃梨子は二人からのプレッシャーの他に、宗子の表情に妙な緊張を見出した。 志摩子さんが言った。 「何か、訊きたい事があるのではなくて?」 「いえ、そのようなことは……」 「いいのね?」 そう言って微笑む志摩子さんだけど、何故かその笑顔には有無を言わさぬ迫力が。 「……」 何故か宗子が普段への字の口元を一層引き締めて、顔中に冷や汗をたらたら流していた――。
――。
「――リコ、乃梨子!」 「はっ!?」 気がつくと目の前に麗しい志摩子さんのお顔。 「今、私何を……?」 「こんなところで寝ていては駄目よ」 「へ? 寝て?」 いや思い出した。 志摩子さんの発する無言のプレッシャーに当てられて椅子に座ったまま気を失っていたのだ。 見回すと、もう隣の席に相良宗子は居なかった。 「彼女は帰ったわ」 「そ、そう……」 乃梨子が意識を失っている間に何があったのだろうか? なんだか、もう家に帰りたくて仕方がないのだけど、でも帰れない。 二条乃梨子という人間が志摩子さんを前にしてそんな風に帰れるわけがないのだ。 自己矛盾の胸中に乃梨子は心の中で涙を流したのだった。
------------------------ 役に立たない解説 2−2 ・魔法(砲)攻撃:いちおう追尾するのも知ってます。でも志摩子さんはアレを無理矢理曲げたってことで。 2−3 ・暑苦しい格好:“野戦服”っていうそうです。
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