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あなたと生きる道志摩子はみてる  No.130  [メール]  [HomePage]
   作者:bqex  投稿日:2009-04-25 23:34:28  (萌:0  笑:0  感:2)  更新日:2009-11-21 01:50:22
【Ga:2927】に当初載せていたものです。

※マリア様がみてる「ハローグッバイ」終了後のお話で、オリジナルキャラクターが登場します。苦手な方はスルーしてください。



 新学期が始まった。
 講堂の裏の桜が満開で、志摩子は乃梨子とお花見をしながらお弁当を食べる約束になっていた。
 乃梨子はすでに来ていて、二人でそばに腰をおろして桜を見ながらお弁当を広げる。

「もう1年たったのね」

「うん」

 桜は去年と同じように咲いている。

「去年、受験に失敗して、全然リリアンに馴染めなくて……たまたまこの桜が気になって、見に来たら志摩子さんがいて……」

 一つ一つ思い出すように乃梨子が言う。

「そうね。あの時、乃梨子に会えて、それからずっと一緒にいて……」

 お姉さまである聖さまを送り出して、志摩子はこの桜の木の下で乃梨子と出会った。その後、乃梨子が実家を訪ねて来てくれて、マリア祭で実家の事を告白して、なかなか乃梨子にロザリオを渡す事が出来なかったけど。あれからもう1年たったのだ。

「……ねえ、志摩子さん」

 ハッとして志摩子は乃梨子の顔を見る。

「何?」

「いや、どうしたのかなって」

「何が?」

「元気ないみたいだから」

 乃梨子が心配そうに聞いてくる。

「そう? きっと、新学期が始まったばかりで疲れているのかもしれないわね」

「そう。それなら心配ないけど」

 乃梨子はそう言った。

「あ」

 志摩子は思わず声を上げた。乃梨子が訊く。

「どうしたの?」

「いえ……何かが今、こちらを見ていたような気がして……」

 志摩子は辺りを見回す。

「何かが? 私は何も見えなかったけど」

 乃梨子も辺りを見回す。

「気のせいだったみたいね」

 志摩子はそう言ってご飯を口に放り込んだ。



 ある日の放課後、薔薇の館に集まった。
 乃梨子以外の全員がそろっている。
 菜々ちゃんと瞳子ちゃんがお茶を入れてくれる。

「この前まで3年生なんてずっと大人なんだって思ってたのに、いつの間にか私達が3年生とはね」

 黄薔薇さま、由乃さんがしみじみと言う。

「そりゃあそうですよ。いつまでも1年生じゃ困るじゃないですか」

 当たり前の事を紅薔薇のつぼみ、瞳子ちゃんが答える。

「あら、2年生には2年生の気苦労ってものがあるのよ。たとえば、さっさと妹を作りなさいってな具合にね」

 あなたがそれを言いますか、と言うように瞳子ちゃんが由乃さんをちらりと見る。

「まあ、私が言えた義理ではないんだけどね。部活でちょいちょい抜けちゃうのも、1年生を妹に迎えたのもみんな私ですからね」

 笑いながら由乃さんはそう言ってお茶を飲む。

「瞳子、焦らなくていいんだよ」

 黙って聞いていた紅薔薇さま、祐巳さんが言う。

「この子を心から妹にしたいと思った時に申し込めばいいの。山百合会幹部に向いていそうとか、私が卒業するまでとか、そんなのはどうでもいい事なのよ」

 祐巳さんはそう言ってお茶を飲む。

「もし、ちょっとでも気になる子がいたら遠慮なく薔薇の館に連れていらっしゃい。私達もそういうお試し期間があったわけだし、お手伝いをしてくれた子を必ず妹にしなければならないって事はないのだから」

 去年、お手伝いに来ていた可南子ちゃんは結局誰の妹にもならず2年生になった。
 その事を言っているのだろう。

「わかりました。そういう下級生が出来た時には」

 瞳子ちゃんはそう言って席に着いた。

「あら、祐巳さん、落ち着いていられるのも今のうちよ。瞳子ちゃんが妹を連れてきてきたら、瞳子ちゃんをはさんで向こうとこっちで大変な事になるんだから」

 由乃さんはお姉さまの令さまを挟んで、令さまのお姉さまである江利子さまとはライバルだと公言してはばからない。

「そうとは限らないと思うけど? 私は蓉子さまには可愛がってもらったし、それに瞳子が選ぶ子だもの。どんな子だって受け入れるわ。もしかしたら、うんと可愛がっちゃうかも」

 祐巳さんは微笑む。
 それがちょっとだけ由乃さんには面白くないらしい。

「あら、じゃあ、瞳子ちゃんの妹を祐巳さんが可愛がりすぎて瞳子ちゃんが嫉妬する修羅場になるかもね」

「またあ、由乃さんてば」

 祐巳さんがちょっと渋い顔をする。
 瞳子ちゃんはすまして、どうって事のない話として聞き流しているように振舞っている。
 2人とも口に出しては言わないが、去年、祐巳さんとそのお姉さまである祥子さまが気まずくなった原因の一つに、瞳子ちゃんが2人の間に割って入ったからだという噂があった。

「でも、そういう意味で言ったら志摩子さんは大変よね」

「え?」

 急に話を振られて志摩子は戸惑う。

「だって、聖さまの向こうには卒業して誰もいなかったし、乃梨子ちゃんの向こうにも誰もいなかったのに、急に乃梨子ちゃんの妹が出来るのよ。いきなりライバル出現だもの。それとも修羅場になるのかしら?」

 志摩子のお姉さま、聖さまは3年生になってから志摩子を妹にしたため、白薔薇ファミリーは長い間2人しかいなかった。そして、志摩子は由乃さんの言うように姉妹の姉妹を持った事がなかった。

「え、ええと……」

「遅くなりました」

 乃梨子がビスケットの扉を開いて入ってきた。

「どうしたの?」

「すみません、ちょっと寄り道してて、遅くなりました」

 乃梨子がぺこりと頭を下げる。

「いいわ。始めましょうか」

 乃梨子は席に着く。

 今、志摩子は助かったと思った。
 何故、そんな事を思うのだろう。
 乃梨子が妹を作る。それは白薔薇のつぼみとしてはごくごく当たり前の事で、自分が何も言わなくても妹を作るだろう。
 でも、何故自分は今までそれを考えた事がなかったのだろう。
 何故、自分はそれを今考えてしまったのだろう。
 考えてしまった時明らかに動揺している自分がいる。

 去年とは違う、何かが志摩子の心のずっと奥にほんの小さくあった。



 マリア祭が終わり、翌日の昼休み。

「お姉さま、お話があります」

 薔薇の館でお弁当を食べていると、一足先にお弁当を食べ終わった乃梨子がそう言って切り出した。

「何かしら?」

「お姉さまに紹介したい人がいるんです」

 乃梨子はちょっと顔を赤らめて言った。
 志摩子にはそれがどういう事がわかった。
 最近、放課後薔薇の館に遅れてきたりする乃梨子。
 昼休み、お弁当を食べ終わると飛び出していった乃梨子。
 それはそういう事なのだと理性では理解できた。
 しかし、一瞬頭を何かで殴られたような気になった。

「そう」

「それで、今日の放課後にお時間をいただけませんか?」

「……いいわ」

「じゃあ、講堂の裏で」

 そう言って乃梨子は飛び出していった。
 ビスケットの扉を見つめながら、志摩子は心のずっと奥にある、気づかないようにしていた何かにまた、気づいてしまった。

 乃梨子にロザリオを渡せなかったあの日、心の中に吹いてきたハッカ飴のようなスーっとするものとは違う。
 これはなんだろう。
 志摩子は心のずっと奥にあるそれがほんの少しだけ大きくなったような気がしていた。

 あっという間に放課後がきてしまった。

 3年生にもなると掃除は要領よく割り振りされ、すぐに終わってしまう。そして、お節介なクラスメイト達によって、掃除日誌は取り上げられ、薔薇の館か委員会に送り出されるのだが、今日は講堂の裏の、あの桜の下に向かう。

 乃梨子はまだ来ていなかった。

 桜は既に散っていた。
 それでも志摩子は桜を眺めていた。
 それはちょっとの間だったのかもしれないし、随分と長い間だったのかもしれない。

 ふと視線を感じてそちらを見ると、そこには小さなお地蔵さまがいた。

 こんなところに、お地蔵さま?

 こんなもの、こんなところにはなかったのに。
 志摩子が首をかしげていると乃梨子が走ってきた。

「ごめんなさい、お姉さま。お呼び出しして遅れてしまって」

 息を切らして乃梨子が言う。

「いいのよ。別に走らなくても」

 乃梨子は一息ついた。
 そして、乃梨子はよいしょとお地蔵さまを抱えると志摩子の目の前に置いた。

「お姉さま、私が妹にしたいと思った下級生を紹介します」

 乃梨子は言った。
 志摩子は意味がわからなかった。

「彼女は1年桃組の大仏みろくさんです」

 この場には乃梨子と志摩子、そしてお地蔵さましかいなかった。

「みろくは敬虔な仏教徒で今まで仏教系の学校に通っていたんですが、ご両親の都合で東京に来る事になって。で、本当は向こうで通っていたのと同じ系列の花寺に入りたかったそうなんですが、花寺は男子校で、代わりにって紹介されたリリアンに入ってきたんです」

 乃梨子は笑っているが、志摩子は全然笑えなかった。

「乃梨子」

「はい」

「これは、何の冗談なの?」

「いや、冗談じゃなくて、私、みろくを妹にしたいんです」

 乃梨子は戸惑った表情になる。

「本気で言っているの?」

 お地蔵さま相手に。

「本気で言っています」

 お地蔵さま相手に。

「ロザリオをあげたいというの?」

 お地蔵さま相手に。

「ええ。お姉さまさえよければ、今すぐここでロザリオを渡したいと思ってます」

 お地蔵さま相手に。

 志摩子は乃梨子に背を向けると無言で走り出していた。

 乃梨子に余計なプレッシャーを与え過ぎてしまったんじゃないだろうか?
 乃梨子は妹なんか作りたくなかったのに、それが重圧になって、でも、割り切って妹を作る事なんかが出来ずに、だからといって……

「お地蔵さまだなんて……」

 仏像が好きだからと言って、お地蔵さまを抱えてきて妹にしたいと言うとはひど過ぎる。

 志摩子は気がつくと銀杏並木のところまで来ていた。
 ここから一歩踏み出すとそこは大学の敷地、聖さまの学び舎である。

 偶然出てきた集団の中に私服姿の祥子さまを見つけた。

 くるりと振り向き駆け足で高等部の敷地に戻る。
 少し走ると志摩子は足を止めた。
 去年もこんな事があった。思い出して自分が滑稽になる。さて、どこへ行けばいいのか──
 気がつくと薔薇の館の前に立っていた。今日も集まりがあるのだが、このまま乃梨子と顔を合わせる気には到底なれなかった。

「ごきげんよう」

 菜々ちゃんが急ぎ足で到着した。

「菜々ちゃん。今日は急用ができたから帰ると伝えてもらえるかしら」

「あれ? お入りにならないのですか?」

「ええ。では、急いでいるから。ごきげんよう」

 そう告げると志摩子は教室に置いてきた鞄を持って帰った。



 その数日後。
 今日は会合はない、由乃さんがわざわざ訪ねて来てくれて志摩子にそう言った。
 その日は委員会の集まりがあって志摩子はそちらの方に顔を出した。
 乃梨子とは毎日薔薇の館で会ってはいたが、最低限の言葉を交わす以外の事はなかった。
 乃梨子もお地蔵さまの事は何も言ってこなかった。
 だから、気が回らなかったのかもしれない。

 委員会が終わり、志摩子は薔薇の館に足を向けた。階段を上って行くと誰かいるらしく、笑い声がする。

「ごきげんよう」

 扉を開けて志摩子は硬直した。

 そこにいたのは祐巳さん、瞳子ちゃん、ボーイッシュな少女、そして、あのお地蔵さまだった。
 志摩子は立ち尽くしている。

「ごきげんよう」

 祐巳さんと瞳子ちゃんが同時に返す。

「今日は、山百合会の活動はなかったって……」

「ええ。だから今日は個人的な集まりよ」

 志摩子がうめくように言った言葉にさらりと祐巳さんが答える。

「由乃さんと菜々ちゃんは剣道部で、瞳子も演劇部でそれぞれ忙しいから助っ人を頼もうと思って瞳子の知り合いを連れてきてもらったの」

 志摩子はめまいを覚えた。
 そして、初めて薔薇の館を訪れたあの日、聖さまが烈火の如く怒ったあの時の事を思い出した。

「……ごめんなさい、外してくださるかしら」

 かろうじてそれだけ言った。
 祐巳さんに促され、瞳子ちゃんがよいしょとお地蔵さまを抱え、ボーイッシュな少女を連れて出て行った。
 志摩子は2人と1体が出て行くと膝から崩れ落ちた。

「志摩子さん」

 祐巳さんが志摩子の手を取って立たせようとする。

「……乃梨子から聞いたのね?」

 しゃがみ込んだまま、志摩子は訊いた。

「何の事?」

 祐巳さんが知らなければ瞳子ちゃんが世話を焼いたという事に違いない。

「それで、来るの?」

「彼女達は個人的な助っ人で、私はいつでも受け入れるわ」

 瞳子ちゃんが個人的なアシスタントを頼むのに反対する事は出来ない。
 それは、かつての志摩子を思い起こさせた。



 翌日の放課後から彼女達はやってきた。
 乃梨子も知らなかったらしくびっくりした顔をして、その後志摩子の顔を見てきた。

「本日よりお手伝いをお願いした1年李組の吉良美知恵ちゃんと1年桃組の大仏みろくちゃんです。私がいない間もこちらでお手伝いをしてもらうつもりです」

 瞳子ちゃんに紹介され、美知恵ちゃんは頭を下げ、お地蔵さまは……お地蔵さまだ。

「お姉さま、わがままを言って申し訳ありません」

「いいのよ。その代わり、いいお芝居をしてちょうだい」

「はい。では、私はこれで失礼します」

 祐巳さんに挨拶をすると瞳子ちゃんは演劇部の方に行ってしまった。

 この時期、演劇部は全国大会に向けての大事な時で、その大会までの間、瞳子ちゃんはそちらを優先する事になっていた。
 美知恵ちゃんとお地蔵さまは主に瞳子ちゃんの代わりに祐巳さんのアシスタントとして仕事をする事になった。

 その日以来、薔薇の館では奇妙な光景が繰り広げられていた。
 由乃さん達が部活でいない日は祐巳さんと乃梨子と志摩子に美知恵ちゃん、そしてお地蔵さまの3人と1体がお仕事をしていた。

 まず祐巳さんがよいしょとお地蔵さまを抱えて自分の隣の椅子の上に置く。

「じゃあ、これはみろくちゃんにお願いね」

 祐巳さんはお地蔵さまの前に書類を置き、次に美知恵ちゃんの前に書類を置く。美知恵ちゃんは書類を片付けていく。
 志摩子も自分の作業を始め、祐巳さんと乃梨子は各部との折衝に出かける。

 祐巳さんも人が悪い。お地蔵さまが書類を片付けられるはずがない。
 あれはきっと祐巳さんか乃梨子が後で片付けるのだろう。
 そう思いながらチラチラと志摩子はお地蔵さまの方を見る。

 ふと見るとお地蔵さまがいない。首を回してみるとお地蔵さまが流しに立っている。
 美知恵ちゃんが移動させたのかしら? と思いながら書類に目を移す。
 そして、飲みかけの紅茶の入ったカップに手を伸ばすと新しい紅茶が入っている。

 顔を上げるとお地蔵さまが席についている。
 あれ、また移動せたのかしら。わざわざ、なんのために? そう思って首をかしげていると、美知恵ちゃんが聞いた。

「白薔薇さま、何か?」

「ううん、なんでもないわ」

 気がつくとお地蔵さまの前にあった書類が片付いていた。
 志摩子は自分の書類に目をやったが、まるで書類の内容など頭に入って来なかった。

 お地蔵さまが薔薇の館に来るようになってから、志摩子は普段もあのお地蔵さまを見かけるようになってしまっていた。
 移動教室で、1年生の廊下で、中庭で、図書館で。
 気にしないようにしていても目につく。
 そして、心のずっと奥の方にあった何かがずしりと重い石のお地蔵さまとなって、そのお地蔵さまを気づかせてしまう。

「ただ今戻りました。各部の書類です」

 乃梨子が戻ってきた。

「ご苦労様」

 乃梨子はあれ以来、お地蔵さまの事を何も言わなくなってしまった。
 普通の会話は交わすのだが、お地蔵さまの事だけは何も言わないのだ。
 志摩子も何も言わなかった。



 ある日の放課後、薔薇の館の階段を上って行くと誰かの泣き声がした。

 そっと扉を開いてのぞいてみると祐巳さんにしがみつき、瞳子ちゃんが泣いていた。

「瞳子、美知恵ちゃんは悪くない。可南子ちゃんも。これは誰も悪くない事なのよ」

 祐巳さんが子供をあやすように瞳子ちゃんに言っている。
 瞳子ちゃんがいやいやというように首を振る。

「そうよね。わかっていてもつらいわよね」

 祐巳さんが優しく言う。

「でも、美知恵ちゃんは可南子ちゃんの妹になったのだから」

 瞳子ちゃんは美知恵ちゃんに振られてしまったらしい。

「お姉さまだって、1回断られた後、私と出会って姉妹になったんだから、まだまだこれからよ。姉のいない下級生で瞳子と出会ってない子はまだいるんだから」

 そう言いながら祐巳さんの頬を涙が伝った。

「ぅわああぁ……!!」

 瞳子ちゃんが号泣する。

 可哀相だけど、祐巳さんと瞳子ちゃんがうらやましかった。
 相手は人間の女の子なのだから。
 そうであったら自分だって、受け入れたかもしれないのに。
 乃梨子は何故お地蔵さまを妹にしたいだなんて言ったのか。
 あれはダメだ。

 志摩子はそっとその場を離れた。階段を降りると乃梨子が入ってきた。

「どうしたの?」

「……祐巳さんと瞳子ちゃんがお取り込み中みたいだったから」

「そう」

 あのお地蔵さまの件以来、志摩子は乃梨子と初めて2人になった。

「……」

「……」

「あの」

 2人は同時に言葉を発した。

「志摩子さんから」

「乃梨子から」

 乃梨子が言った。

「あの、考えたんだけど、あの時私、ロザリオを貸してって言って受け取ったわけだし、だから、このロザリオはやっぱり、志摩子さんのものだから。でも、ロザリオを返すなんて事しないから安心して。あの時言ったように志摩子さんのそばにくっついて離れないのも本当だし」

 乃梨子は早口になってくる。

「でも、これは志摩子さんのロザリオだし、私の妹は、志摩子さんが卒業するまで私と一緒に志摩子さんにくっついている子だから、だから、志摩子さんが納得できない子は私がどんなに好きでも、妹にはしないから……安心して」

「乃梨子」

「みろくは、妹に、しないから……」

「乃梨子……」

 乃梨子の目から涙がこぼれ落ちた。
 涙を流す乃梨子を見て志摩子は辛くなる。
 だが、乃梨子がちゃんと人間の女の子を選んでくれたらこんな思いはさせなかったはずだ。

「乃梨子は、どうしてもお地蔵さまがいいの?」

 思わず口をついて出た。

「お地蔵さま?」

 乃梨子は聞き返す。

「妹にしたいって持ってきたあれよ」

「そんな、みろくを物みたいに言わないで」

 乃梨子は涙を拭いて反論する。ちょっと怒っているようだ。

「あなたにはそうかもしれないけれど、私にはお地蔵さまよ」

「お地蔵さまって……そんなにみろくの事、嫌いなの?」

 乃梨子はうつむいてしまった。

「嫌いとか、そうじゃなくて、あれは論外でしょう」

「論外って。でも、みろくだって、好きでリリアンに入ったわけじゃないんだから、そんな言い方しなくたって」

 乃梨子は顔を上げた。今度ははっきり怒っているのがわかった。

「あ」

「ちょっと、どうしたの? こんなところで固まって」

 菜々ちゃんがよいしょとお地蔵さまを抱えて入ってきて、由乃さんが続いたところだった。

「……なんでもないんです」

 不機嫌そうに目を真っ赤にした乃梨子は言った。

「なんでもないって……志摩子さん、どうしたの?」

 由乃さんに聞かれて志摩子はうつむいた。

 ゴトリ、とお地蔵さまの音がする。

 お地蔵さまが動いたわけではない。
 志摩子の心の中にいるお地蔵さまがゴトリと音を立てたのだ。

「乃梨子、もう、みんなを巻き込むのはやめましょう。菜々ちゃんも、由乃さんも」

「何を言ってるの? 志摩子さん」

 由乃さんが聞いてくる。

「お地蔵さまを薔薇の館に持ち込んで、何のつもりかわからないけれど、もう、こんな事やめましょう」

「お地蔵さま?」

 黄薔薇姉妹が声をそろえて聞いてくる。

「そこのお地蔵さまの事よ」

 菜々が抱えているお地蔵さまを指す。

「みろくちゃんがどうしたの?」

 由乃さんが聞いてくる。

「だから──」

「志摩子さん!」

 乃梨子が叫んだ。
 志摩子は乃梨子の方を向く。
 乃梨子はゆっくりとロザリオを外し始めた。

「!!」

 志摩子は由乃の脇をすり抜け薔薇の館を飛び出した。

 何故、こんな事になってしまったのだろう。

 気がつくとあの桜の木の下で、志摩子は泣いていた。
 あの日と同じように雨が降り出した。
 あの日ここに乃梨子が来てくれた。
 そして志摩子はロザリオを渡した。

 でも、今、乃梨子が来たら──

 志摩子は一人で泣いた。
 どれくらい時間が経っただろう。

 寒い。

 でも、もう、乃梨子は志摩子の隣にはいてくれないのだ。

 寒い。

 心の中のお地蔵さまがどんどん大きくなっていく。
 それはずっしりと重くなり、志摩子を押しつぶしてしまっていた。

 重い、寒い……

 今まで乃梨子が一緒に背負ってくれていた重い物が一気にのしかかったような重さ。
 もう、志摩子は全く身動きが出来なくなっていた。



 気がつくと、志摩子はベッドに横になっていた。
 ベッドの脇にはショートカットが似合う少女が自分の事を心配そうに見つめていた。

「あ……」

 辺りを見回す。どうやら保健室に運ばれたようである。

「白薔薇さまが目を覚まされました」

 少女はそう言って奥の方に呼びかけた。
 乃梨子がひょこりと顔を出す。

「乃梨子」

「よかった。目が覚めて」

 乃梨子の手には濡れタオルがあった。乃梨子はそれを志摩子の額に乗せる。

「ええと……」

「志摩子さん、ずぶぬれになってて熱もあったからここまで二人で運んできたんだよ。志摩子さん家にはさっき電話したから」

「ごめんなさい」

「ううん。でも、まさか志摩子さんが飛び出していくとは思わなかったから」

 乃梨子が言った。

「それは……あなたが……」

「もしかして、私がロザリオ返すとでも思った?」

 乃梨子の言葉に志摩子はうつむいた。

「それはゴメン。でも、もう、返すロザリオなくなっちゃった」

「え?」

 乃梨子の言葉に志摩子が聞き返す。

「みろく。見せてやって」

 ショートカットの少女が首にかけたロザリオを志摩子に見せる。
 それは志摩子が聖さまから貰って、乃梨子の首にかけてやったロザリオだった。

「あの時、みろくを守ってやりたくて、それで、妹にしちゃえばいいかなって、思って、その……勝手に、ごめんなさい」

 乃梨子は頭を下げた。

「乃梨子、お地蔵さまはもういいの?」

 志摩子は訊いた。

「は? いや、だから、ロザリオならみろくにかけたから」

 困惑したように乃梨子が答える。

「それは石でできたお地蔵さまでしょう? この子はどちらさま?」

 ショートカットの少女も困惑した表情で志摩子を見ている。

「いや、だから、この子がみろくでしょう?」

 乃梨子はショートカットの少女を指して言う。

「ええっ!? じゃあ、あのお地蔵さまは何?」

「だから、お地蔵さまって何?」

 志摩子は今までの事を説明した。
 乃梨子がお地蔵さまを持ってきて妹にしたいと言った事、薔薇の館にお地蔵さまが手伝いにやってきた事、飛び出す前もお地蔵さまが抱えられて入ってきた事……

「えっ!? じゃあ、志摩子さんにはみろくがずっと石のお地蔵さまに見えていたって言うの?」

 乃梨子は頭を抱えた。

「ええ。ずっと見えていたわ。今はショートカットの女の子に見えるけど」

「みろくはずっとショートカットの女の子です」

 乃梨子はがっくりと肩を落とした。



 結局、あれはなんだったのだろう。
 翌日、熱が下がって登校した志摩子が聞いて回ったところ、みろくちゃんは志摩子以外にはショートカットの少女だったらしく、お地蔵さまに見えていたのは志摩子だけだったらしい。

「志摩子さん、お地蔵さんがリリアンに通えるはずないでしょう?」

 とは由乃さんの言葉。

「いくら乃梨子ちゃんでも、妹にお地蔵さんはないでしょう」

 祐巳さんが呆れたように言う。

「でも、お地蔵さまがお仕事したり、お茶入れたりするところ、見てみたかったかも」

 と菜々ちゃんが言う。

「じゃあ、私の次の妹候補はお姉さまにはマネキンに見えるかもしれませんね」

 クスリと瞳子ちゃんが笑う。

「まあ、とにかく、新しい仲間の誕生を祝って乾杯よ」

 由乃さんが言う。

「では、乃梨子とみろくちゃんとの姉妹誕生を祝って乾杯」

 全員で紅茶で乾杯する。

 乃梨子が笑っている。
 隣でみろくちゃんが笑っている。
 2人を見ているとみろくちゃんが気付いてにっこりとほほ笑んだ。

 その時不意に志摩子は気づいた。
 みろくをお地蔵さまに見せていたのは自分の心だと。
 そして、それは嫉妬だったのだと気づいた。



 帰り道、マリア様の前でみろくちゃんは裏門の方に歩いて行った。乃梨子と二人きりになる。

「乃梨子」

 志摩子は言った。

「お地蔵さまとでもでもみろくちゃんとでもいいから、卒業するまでもう離れないでそばにいて」

 乃梨子は答えた。

「もちろん。ずっとくっついて離れないから」

 志摩子は乃梨子の手を取って歩き出した。
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出すか出さぬかどこまでも災難だ  No.129  [メール]  [HomePage]
   作者:くま一号  投稿日:2007-12-25 03:41:27  (萌:0  笑:0  感:0)  
 一つは、なにがあろうと再起動。一つは放棄。





 あるキャラクターがいる、そのキャラクターでその話を書くためには存在感がいる。
山百合会のメンバーではどうしても書けないから、オリキャラでシリーズを作って、最後にその話を投入するしかない、私にはそれはできっこない……。
 ……尊敬するある方が、この聖夜にそういう大技を完成させたので(完結したわけではありませんけれど)、そんな手順をちらっと考えたことのあるこのお話は、ネタ帳晒しておしまいにしてしまいます。いえ、とある閉鎖空間にはだいぶ前から晒してあったのですけれど。



 元ネタは、本田美奈子。さん追悼で書いた、【Ga:811】『薔薇は気高く咲いて永遠に』白血病。美奈子。さんが亡くなられてしまったのでここからの逆転を封印したあれです。
 逆転の伏線はすでに全部入っています。本筋はこうなるはずでした。

青薔薇→blue rose →ありえない奇跡→八重咲きトルコキキョウのバラ(サカタのタネの『ロジーナ』)→でも奇跡は起きない。 ここまで書いた。
 でも、今、青いバラといったら、サントリーが遺伝子操作で作ったまだ名前のないバラの方でしょう。

 「美奈子さま」が衰弱し無菌室に入って闘病に入り、髪が抜け落ち…… 骨髄バンクの募集がリリアンでも始まるけれど合う人が見つからない、偶然見つかったその人は妹……移植、骨髄の採取で妹もダメージを受ける、一見成功したかに見えた移植のあと拒絶反応が起こり始める……医師からの絶望の宣告、私はそれを書くこともできませんでした。ガンで肉親を失った経験があるからかけると思ったら、経験があるから書けなかったの。

 どんでん返しはここから始まります。この危機の最中に祥子が韓国へ飛ぶ。当時、遺伝子治療の先端は韓国と思われていました。医療技術の進歩のためにあえて人間のDNAでの実験を許可する国策に出た韓国が一番進んでいると「思われていた」。ソウル大の論文偽造が発覚する前です。韓国のへんぴなところに小笠原の生物学研究所を設定、すでに臨床応用ができるところまで遺伝子治療技術がひそかに進んでいる。

 韓国で状況を把握した祥子は、瞳子の祖父(当時は原作のレイニーまでの情報しかありませんから瞳子じーちゃんは自由に作れました)と密かに協力して美奈子さまの手術をする決意を固める。体育学科の受験勉強で生物や医学をやってる令が止める。「パンドラの箱を開けることになってもいいのか」「副作用が起きたら責任を取れるのか」「それが小笠原の意志?」

 結果は、美奈子さまの白血病と、妹の骨髄損傷の治療に成功する。でも、それは二人のDNAにたまたまマッチした特殊な事例で、普通は副作用が大きいこともわかってしまう。祥子(というより祥子の祖父)と瞳子じーちゃんは技術を封印する。
 ラスト。まだ市販されていないサントリーの青いバラを祥子が手に入れて美奈子さまの病室に持ってくる。
奇跡はあった、これだって生きている本物のバラよね……。

 書けませんでした。『美奈子さま』は山百合会とあまり接点のないキャラ。美奈子とその妹に祥子がそこまで必死になる理由がない。代わりに可南子を想定したんだけど、うまくいかない。なにより脳内イメージが美奈子。さんになっちゃってるんだもん。結論はオリキャラシリーズを作って最後に投げるしかない、無理だ〜。

 というわけで。2年前に放棄した、くま脳内二大大河ドラマ、これともうひとつ、ここに一つ投げた、久保田早紀→ZARD変換の異邦人に乗せた白薔薇の系譜。まさかこっちまで追悼になっちゃうとは思ってもいませんでした。二つとも、もう、書かない。




 これとほぼ同文を閉鎖空間に晒したときにコメントを貰いました。
奇跡はよほどのことがないと、リリアンの世界観になじまない。SFかギャグになってしまったら合わない。
 そういうことですね。ソウル大のES細胞の話は、ばれる前から眉唾ってうわさ、ありました。よほどうまく書き込まないとギャグにしかならない。奇跡は起こらないから奇跡。今日一段落を迎えた方のお話では、聖夜に巨大な奇跡は起きませんでした。いえ、起こされませんでした。マリみてではそれが合っているのでしょう。『降誕祭の奇跡』くらいの、小さな奇跡が似合っているんです、きっと。


聖夜に
くま一号

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クロスオーバー終わらせたいのに何故に引く  No.128  [メール]  [HomePage]
   作者:まつのめ  投稿日:2007-10-31 02:56:50  (萌:0  笑:1  感:0)  更新日:2007-11-17 21:29:25
 いやあ、好き勝手に書くのって楽しいですねぇ……ごめんなさい。
【Ga:2315】【Ga:2320】【Cb:114】【Cb:115】【Cb:116】【Cb:117】【Cb:118】【Cb:119】【Cb:120】
(クロスなんだかパロディなんだか、単なるキャラを借りたモノなのか判らなくなってきています)



  4−5


 銀杏並木を走る傷心の乃梨子。
 前回、前々回とすごい展開だったけど、誘拐も未遂で終わったというのに今回は一番乃梨子に堪えた。
 やはり、志摩子さんとの関係をおかしくされる事が一番の弱点なのだ。
(どうして私がこんな目に……!)
 そして校門を飛び出した辺りで乃梨子の思いはピークに達し、乃梨子は『跳んだ』。


「ぅがぼっ」
 乃梨子はいきなり水中に投げ出された。
 水が口や鼻に進入してくる。
 独特のカルキ臭がして、鼻の奥がツーンとなる。
(な、何? どうなってるの!?)
 乃梨子がパニックしていると、何者かの手が乃梨子を抱きかかえて水面へ運んだ。

「ごほっ、げほっ」
「おい、大丈夫か? とりあえず力を抜け」
 必死でその何者かにしがみついていたのだけど、そんなことを言われた。
「うぅっ……」
 というか、
(って、メリッサさん?)
「どうしたんだ? お前泳げただろう?」
「……え?」
 水音と人の声が反響する室内。
 照明灯の光る高い天井。
 水色の水面、ではなくで水底の色。
 ぷかぷかと揺れている白と赤で彩られた浮きの連なるロープ。
「どうした? ぽかんと辺りを見回して」
「い、いえ……」
 そこは午前中に行った室内プールであった。
 そう。
 つまり乃梨子はタイムリープしたのだ。
「少し休むか? 疲れたみたいだな」
「は、はい」
 そして、メリッサさんに引っ張られるようにしてプールサイドに向かったのだけど、休むことは出来なかった。
「キミ達、ちょっと」
「はい?」
 二人が水から上がろうとしたところ、水着の上にスタップTシャツを羽織った男に声をかけられたのだ。

 乃梨子とメリッサさんは事務室みたいなところに連れてこられて、係員に説教されていた。
 これは、午前中に一回経験したことだった。
 そして、乃梨子の記憶通り、開放されてすぐ、メリッサさんは「もう出よう」と言い、二人は事務室を出て真っ直ぐ更衣室に向かったのだ。

 
「あの、学校は……」
 建物を出てから、これも乃梨子が一回経験した通り、メリッサさんが学校へ行くと言い出した。
 それに対して答えたのがこの乃梨子の台詞である。
「……やめておいた方がいいかと」
「何故だ? お前の先輩がWITCHなのを見たのだろう?」
「えっと、多分協力してくれないと思います。というか私が『痛い人』にされるのはちょっと、あ、いえほら、タイムリープのことは話さないつもりだし、いきなりメリッサさんの事情を説明しても誤解されるだけだし……」
 とにかく、『あの事態』を避けるために乃梨子は必死に説明した。
 メリッサさんはそんな乃梨子を訝しげに見つめていた。
 そして言った。
「ノリコ。おまえもしかして、わたしを差し置いてタイムリープしてないか?」
「へっ!?」
 思わず声が裏返ってしまった。だってその通りだから。
 メリッサさんは責めるようにもう一度繰り返した。
「おまえ、タイムリープしただろ?」
「ななな、なんで……」
「学校へ行ったのか? どうなんだ。隠しだてするとためにならんぞ?」
 思い切り顔を寄せてくるので、慌てて答えた。
「え、ええっと。行きました。行きましたとも」

 とりあえず、シラを切り通されて協力は得られなかったことと、メリッサさんが学校のほうはあまり期待してなかったこと等を話すと、メリッサさんは納得したように頷いて言った。
「なるほど。じゃあやはりレインボーブリッジだな」
「ちょっ、それは最後の手段なのでは?」
「んっふっふっ。そうだったかしら?」
 なにやらいやらしい笑みを浮かべるメリッサさん。
 
「し、死にます! 絶対死にますからっ!」
「ほらほら、周りの注目を集めてるぞ」
「でっでもですね!」
 結局「レインボーブリッジならすぐ近くだから」と、ゆりかもめの駅まで引きずられて(来る時は地下鉄だった)強引に列車に乗せられて、お台場海浜公園駅で降りて……。
 道中、乃梨子は「これだけ跳んでるんだからもう大丈夫」とか「下は海だから最悪私が守ってやる」とかいろいろ言い包められて、結局レインボーブリッジの遊歩道まで来てしまったのだ。
 でも、暑いし車道と隣り合わせでうるさいし、不快指数上昇中の乃梨子であった。

 歩道の外側は高いフェンスが張り巡らしてあって、乗り越えるのには難儀そそうなのだけど、兵隊の訓練を受けたメリッサさんの障害になるはずが無かった。
 いま乃梨子は、飛び降りるに丁度良さげな場所で、二人で金網越しに下の海面を覗き込んでいた。
「……50メートルでしたっけ?」
「まあ大したことは無いかな」
「……」
 なんともコメントしようが無かった。
「じゃあ、人が来る前にぱっぱと行くぞ」
 というか自動車のドライバーが目撃してる気がするんですけど。

 ――とりあえず、金網の上から真下に海面を望むのは金網ごしとは全然違ってたことを伝えておく。

 そして、メリッサさんと抱き合いながら落下中――。

「すまんーー!」
「はいぃぃぃ!?」
 耳を覆う風の唸りごしに大声で会話した。
「もし海面まで行ったら、私ら死ぬから!!」
「はいぃい!?」
「し・ぬ・か・ら!!!」
「なんですとーーー!?」
 騙されたーーー!?
 と、恨み言をいう余裕も無く、海面はどんどん近づいていった……。


 ……。


 ……で。


 もちろん跳びましたとも。

 ただ並木道を走って飛べたんだから、50メートルも落下すれば余裕でした。




  □



 気が付くと乃梨子は部屋のベッドで横になっていた。
「……夢?」
 まさかね。
 それでも乃梨子は期待して、寝そべったまま枕もとの携帯を探した。
 乃梨子がそれを見つける前に、それは鳴り出した。
「え? ちょっと」
 慌てて起き上がり、身体の向きを変えてベッドの上に座り込み、枕の横で自己主張していた自分の携帯を取った。
「あの、もしもし?」
『あーノリコ? あたしだが』
 メリッサさんだった。
「……乃梨子です」
『何であたしの声聞いて急にトーンダウンするんだ?』
「別に深い意味はありません。えっと、どうしたんですか?」
『どうしたっていうか、家に入れてくれ』
「……」
 えっと、メリッサさんが居るってことは?
 そこでようやく乃梨子は耳に当てていた携帯を耳から離してその液晶に表示されている日付を見た。
 日付は変わっていなかった。
(どうなってるの?)
 タイムリープに成功したんじゃなかったの?
 あれだけ高いところから落ちたのだから二、三日過去に戻ってても良いだろうに、なんて思いつつ、とにかく乃梨子はベッドから立ち上がった。
「あれ?」
 起き上がってみて乃梨子は自分がまだ制服を着ていることに気付いた。
(着替えてない?)
 しかし何故かここまでの記憶が無かった。
 時間は同じ日の夕方だ。つまり未来へ跳んだのか?
 その時また携帯が鳴った。
「あ、はい?」
『乃梨子、頼む、早く来てくれ』
「い、いま行きますから」
 なんだかメリッサさんの声は疲れていた。


「ど、どうしたの?」
 壁にもたれていた彼女は乃梨子が来るとふらりとそのまま乃梨子にもたれかかってきた。
「酷い目にあった」
「非道い目?」
「ああ、基地の実験なんて目じゃない。あいつら悪魔だ」
「あいつら?」
「そうだ。実はな……」
 話を聞いてみると『WITCHとの接触』に成功したとか。
「って、じゃあやっぱり薔薇さま方は『魔法』を使えたんですね?」
「とにかく、休ませてくれよ」
「あ、うん……」
 でも。
 メリッサさんは『小さい』ままで変わっていなかった。
 身体を何とかしてもらうんじゃなかったのか?

 とりあえず、部屋で連れて行って、彼女を自分のベッドに寝かせた。
「何か食べます?」
「いや、まだいい」
「それで、どうだったんですか?」
「治してもらったさ。奴ら流のやりかたでな」
 メリッサさんの話はこうだった。
 学校の銀杏並木で乃梨子が走り去った後、薔薇様方に捕まって、メリッサさんの理解できない方法でどこかに連れて行かれたんだそうだ。
 そこは、なにやら病院か研究施設のようだったらしいけど、そこで『マッドな女』(メリッサさんがそう言った)に検査と称していろんなことをされたそうだ。
「いろんな?」
「そうだ。……思い出したくもないことを色々だ」
 結局、『この状態』で普通の人間に戻れたらしい。
 なにやら痛々しいので詳しくは聞けなかったが。

「というわけで、乃梨子。時間を戻してくれ」
「は?」
 乃梨子は『いつ死ぬか判らない状態』を治してもらったからこれで『解決』だと思っていたのだけど。
「あたしは元に戻りたかったんであって、16歳の小娘になりたかったんじゃないんだ」
 ……そういうことか。
「せっかく治してもらったのに我侭ですね」
「うるさい。乃梨子がタイムリープできるのにこのまま黙って受け入れられるかよ」
「でもですね、私のは……」
 未だにコントロールが利かないと言おうとして、とても重大なことに気付いた。
「……メリッサさん」
「どうした? 深刻な顔をして」
「さっき銀杏並木で私と別れた後って言いましたよね?」
「言ったが、それがどうした?」
 それはおかしい。
 乃梨子は銀杏並木で走り去った直後に午前中まで遡ったのだ。
 そこでメリッサさんと学校には行かずにレインボーブリッジから飛び降りた筈。
 今日の学校での出来事は『無かったこと』になったはずなのだ。
 なのに――。
「な、なんで?」
「おい、顔色が悪いぞ?」
 この訳の判らない事態に乃梨子は『信じられない』を通り越して恐怖を感じていた。
 レインボーブリッジから跳んでタイムリープは未来に乃梨子を運んだ。
 ……筈だった。
 なのに、実際は、『銀杏並木から走って過去に戻ったこと』自体が『無かったこと』になっているのだ。
 いったい何が起こったのか――?


「つまり、一旦一つ前のタイムリープの分岐まで戻ってそこから、干渉が無かったルートを辿って未来へ行ったんだな」
「そうなんですか?」
「お前がやったんだろ? しっかりしろよ」
「で、でも……」
 『信じられない』までも理解できるものなら恐怖は無かった。
 でもこれは何?
「乃梨子、お前、そのレインボーブリッジから飛び降りた時何を考えた?」
「何? 何って……」
 あの時は、その理不尽さに「もう嫌だ」って……。
「学校へ行った方が良かったとか考えなかったか?」
「……考えたかも」
 極限状態でよく覚えていないが、確かにそうかもしれない。

「これはタイムリープというより、タイムアンドゥとでも言うべきかな」
「はい?」
 なんだそれは。そんな言葉聞いたことが無い。
「いや、言葉はいま考えたんだが。何か起こった出来事を時間軸で巻き戻す。巻き戻す対象は乃梨子自身のアンドゥ操作も含まれてる。そう考えたほうがすっきりすると思ってな」
 って、そんな胡散臭い造語を当てられても困るのだけど。
「でも私、そんな大それたことをしてたんですか?」
「乃梨子が『無かったこと』にしたかった事象だけが変わってるだろ? 関連していないことは同じ経過を辿るわけだし」
 そうなのかな?
 良く判らない。
「だからさ、乃梨子は我々と関わりを持ったことを無かったことにすれば良いんじゃないか?」
「そりゃ、そうなんですけど。でも結局、戻ってもまた関わってきてますよね」
「それは乃梨子が目の前の現象だけに注目してたからだろ? 例えば宗介に会うとか」
 宗子のことか。
「私には裏で行われてる作戦なんて知りませんから」
「そこだよ。今は知ってるだろ?」
「まあ、なんだかんだで色々聞きましたから」
 この繰り返しの中で、この人たちが何かの作戦活動をリリアンで展開しているってことは判った。
 それが護衛なのか誘拐なのかはいまいちはっきりしないのだけど。
「これは仮説だけど、多分、時間を遡った後は、乃梨子が無くしたいと思った現象だけが大きく変わるんだ」
「私が?」
「そうだ。だから、私らの作戦行動をターゲットにして作戦が立案されるタイミングまで巻き戻せば、作戦自体を無かったことに出来るかもしれないぞ」
 メリッサさんの理論が正しければ確かにそういう事になる。
「でも、その立案って、いつなんですか?」
「判らん」
「って、それじゃ駄目じゃないですか!」


 判らんけど一週間も戻れば現象も変わる筈だ、ってことで、乃梨子はまたレインボーブリッジに立っていた。
「あのー、別にここじゃなくても」
「いいや、ポイントは落差×想いの強さだ」
「何を根拠にそんな……」
「乃梨子は私らと関わるのが心底嫌になった。そうだろ?」
「え? ええと……」
「そう思い込むんだ! クルツや宗介や私は乃梨子の平穏な生活を脅かす敵だ! そう思い込め!」
「は、はいっ!」
 ……こういう体育会系のノリは苦手なんですけど。
 そんなことを思いつつ。

 乃梨子は、自分は何をやっているのだろうと考えていた。
 何処をどう間違えてこんなことになってしまうのか。

 ――金網を登るためにメリッサさんの手を掴む。

 リリアンに入学したてのころからは考えられないことだった。
 思えばあの瞬間が私の幸せのピークだったのかもしれない。
 ピンクの桜吹雪に囲まれていたあの時が懐かしい。

 ――金網の上に立ち、しっかりメリッサさんを抱え込む。

 この子がもし唯のリリアンの新入生だったら、普通に仲良く出来たのかもしれない。
 心底そう思った。

「行くよ」
「……はい」

 ――浮遊感。
 
 ―――。

 ――。


 それは、随分と長く感じられた。

 とても遠くまで飛んでいったような気がした。

 その『旅』はやがて終焉を迎え――。



  □



「………ぁぁぁああああっ!」
「きゃっ!」

 柔らかい感触があった。

「え? 何? あ!?」

 地面を覆うピンクの絨毯。
 そこに広がる柔らかな巻き毛。

 それは幻想?

 そこには『天使』が倒れていた。

「えーと」
 突然のことに何がどうなったのか理解できていなかった。
 だが、状況的に乃梨子が相手を押し倒してしまったらしい。

 ……って、押し倒した?

「あっ! ごめんなさい! あの?」
 乃梨子はその『天使』を下敷きにしていたのだ。
 慌てて飛びのいて、彼女に手を伸ばして立つのを助けてあげる。
(っていうか、志摩子さんじゃない!)
 よくよく見ればそれは見慣れた筈の志摩子さんだったのだ。


 髪も同じで服もリリアン制服なのに、どうして判らなかったのかといえば、それはその纏っている儚げな雰囲気が乃梨子の知っている、薔薇さまを勤めてもう二年目になる、しっかりした志摩子さんと余りにギャップがあったからだ。
 それはまるで会ったばかりの頃のような、儚げで今にもどこかへ消えてしまいそうな……。
(……会ったばかりの?)
 乃梨子は愕然とした。
 良く見れば、今転んで汚してしまったが、乃梨子が着ている制服は真新しい新品だった。
 ここは講堂の裏手の銀杏並木に一本だけ混じっている桜の木の下。
 その桜も満開でピンク色の花びらを雪のように盛大に降らせている。

 つまり……。

 ……。

(戻り過ぎだろー!!)
 思わず叫びだしそうになるのを、なんとか抑えた。
 だって、だとしたら、いまは志摩子さんと初めての出会いの時なのだ。
 ここで取り乱して第一印象、『変な子』にされてしまったら、今後の学園生活に深刻な影響を及ぼすであろう。
 乃梨子は志摩子さんに背を向けて、志摩子さんが制服に付いた土埃や花びらを払う気配を感じながら、これからどう対応しようかと考えていた。
(もう一回謝って、自己紹介かな。いやそれとも志摩子さんが話しかけてくるのを待とうか?)
「……」
 待てども志摩子さんの声が掛からないので乃梨子は背を向けたまま言った。
「あ、あの……」
「……」
「……?」
 おかしい。何故、何も話してくれないのだろう?
 怒らせてしまったかな?
 それは絶対に不味い。
 乃梨子は振り返って思い切り頭を下げた。
「ごめんなさい! その、とにかくごめんなさい!」
 言い訳の言葉が思いつかなかった。
 タイムリープで飛んできてぶつかっちゃいました、なんて事実でもいえないし。かといってリリアンの新入生が衝突事故を起こすような速度で銀杏並木を疾走していた理由なんて思いつかないし。
「……」
 頭を下げたまま、志摩子さんの返事を待ったのだけどそれでも志摩子さんは返事をしてくれなかった。
「……あの?」
 恐る恐る顔を上げて前方を見ると……。
「キミが謝る必要はない。キミのした事は謝ってどうにかなるものでもないからね」
 乃梨子は半端に腰を折った奇妙な姿勢、口を半ば開け放った顔のまま固まった。
 そこに居たのは“志摩子さんではない何か”だった。
 円筒状のシルエットをした『それ』は顔に半分だけ笑ったような奇妙な表情を浮かべて、性別不明の口調で言った。
「してしまったことは仕方が無いよ。幸いまだ回復可能なレベルだからね。もっともその為の労力は並大抵のものじゃないけどね」
「……ぁぅ」
 乃梨子はやっとのことで言葉を発したつもりだったが、うめき声のようなものがただ喉から漏れただけだった。
「心配しなくても良い。僕は別にその労力をキミに求めに来たわけじゃないんだ。それは僕の仕事だからね」
「……ぅそ、なに? なんで?」
 やっとのことで声は言葉になった。

 乃梨子がここまで取り乱した理由。
 それは決まっている。



 『それ』が、でもやっぱり志摩子さんの顔をしていたからだ。





まつのめ > ……うーむ、これで【完】でいいか。 (No.1522 2007-11-17 21:30:13)
さんたろう > 4ヶ月以上もの間、ずっとNo.120をリロードし続けて、「最近更新されないなぁ」などと思ってた…ま〜ぬ〜け〜onz (No.1523 2008-02-14 18:53:42)
さんたろう > なんか時間の移動と言うより、平行世界への移動のような気がします。時間軸が巻き戻った時点から分岐してるのか…乃梨子のイメージが適当だから思った通りの世界に移動できないとか。 (No.1524 2008-02-14 20:20:47)
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出すか出さぬかベタすぎるお話力尽きた物語  No.127  [メール]  [HomePage]
   作者:mim  投稿日:2007-10-23 00:50:02  (萌:0  笑:1  感:0)  
ゆ「ねぇ、由乃さん、私も剣道部に入ろうかな?」
よ「えっ、祐巳さんなら大歓迎よ!
  でも、突然どうしたの?」
ゆ「風の噂で聞いたんだけど、剣道部って部活終了後に
  餡子入りのパスタライスが出るんでしょ!」
よ「……親切なサンタさんに頼んだら?」(棒読み)
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キャラクターなんとか機  No.126  [メール]  [HomePage]
   作者:まつのめ  投稿日:2007-10-18 13:53:54  (萌:0  笑:0  感:0)  更新日:2007-10-19 03:07:39
がちゃSと全然関係ないけど、たまには画像登録機能も使ってみようかと。
    
by キャラクターなんとか機 (c)緋龍華 麒麟



追伸:二期メンバー作ってみた。無理かと思ったら意外と何とかなった。「なぜ黄薔薇だけコスプレ?」とか聞かないこと。


とおりすがり > 祥子さまにアホ毛が…(笑) (No.1520 2007-10-19 02:14:51)
くま一号 > ……のようなものをメールで送りつけていらっしゃってきやがりました方がいらっしゃるのですが……乃梨子の衣装の選択が同じだ…… (No.1521 2007-10-19 20:03:21)
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過去から未来へと繋ぐ軌跡  No.125  [メール]  [HomePage]
   作者:joker  投稿日:2007-10-16 03:28:09  (萌:7  笑:1  感:1)  
「分かりました。おそらくは別の世界である可能性が高いですが……。マスターの希望ならばお話しましょう」

 そして、セイバーさんの物語の一端が語られ始めた。

「私は前回、日本の冬木市という町に召喚されました。そこでは、ある戦いが行われており、私は守護者のような役目として召喚されました」
「守護者?」
 由乃さんが疑わしいそうな目でセイバーさんを見ている。
 確かに、セイバーさんは傍目から見ると華奢な女の子にしか見えない。もし、令さまとセイバーさんを並べて比べたら、ほとんどの人が令さまの方が強そうだと言うだろう。
「はい。私は剣の英霊のサーヴァント、セイバーとして呼ばれました。そしてマスターの剣となり盾なり敵と戦っていたのです」
 そういえば、セイバーというのはクラス名だと最初会った時に言っていたっけ。
 あの時は何の事かは分からなかったが、そういう意味だったのか。
「その戦いの事は詳しくは話せまんせが、私は事情により戦いの途中でマスターの同盟者のリンという人のサーヴァントになる事になったのです」
 そしてセイバーさんは何かを思い出すような目をした。
「そしてマスターとリンは最後まで生き残り、元凶となる物を破壊し、いつか私の答えを得る事をリン達に心で誓い、別れたのです」
 そう語るセイバーさんの表情は、どこか悲しそうでした。
「ごめんね、セイバーさん」
 祐巳の言葉にセイバーさんは不思議そうな顔をする。
「何故、謝るのですか? ユミ。」
「だって、セイバーさんの昔の事を無理矢理聞いちゃったし。セイバーさんにとって、その人達との事は大切な思い出なんでしょう?」
 祐巳の言葉に、セイバーさんは少し驚いたような顔して、ふっ、と柔らかく微笑した。
「ユミ。最初に会った時にも言いましたが、ユミが気にする必要はありません。それに、ユミは善意で私の事を聞きました。そして、私はその善意に出来るかぎりで応えたにすぎません。ですから、ユミが気に病む事はありませんよ」
 セイバーさんはそう言うと、祐巳の頭の上に手をポンと置いて優しく手を動かした。
「……なんか、祐巳さんの方が年下に見えるわね」
「……お姉さまには紅薔薇さまとしての自覚が足りませんわ!」
 祐巳の向かい側と隣から、呆れた声と不機嫌な声がするけど、頭を撫でられるのも結構悪くない。
 セイバーさんの手は小さい頃にお母さんに撫でてもらった時と同じような感触だった。
 そんな祐巳達を見ている由乃さんは、はあ、とため息をついた。
「……これが過去の英雄だなんてね。世の中広いわねぇ」
 由乃さんがしみじみといった感じで言う。
「ん? ということは、セイバーさんは本当に何もする事は無いんでしょ? これからどうするの?」
 由乃さんが尋ねると、セイバーさんは困った顔する。
「はい。一応、昨日ユミに町を案内してもらった時にいろいろ調べてみたのですが、何かが起こっている様子は皆無のようです。私が呼び出されたのは偶然のようですね」
 セイバーさん、昨日そんな事をしていたんだ……。全然気がつかなかった。
 だって、セイバーさん。途中でたい焼き食べたり、アイス食べたり、たこ焼き食べたり、クレープ食べたりしてたから。
 ……正直、今月を乗りきれるかどうか、不安だ。
「祐巳さん、そろそろ教室に戻った方がいいと思うのだけど」
「そうですね。ほら、瞳子。ぼーっとしないで」
 志摩子さんの言葉に乃梨子ちゃんも追従して何かを考えている瞳子を急かしている。
 もうそんな時間になるのか。確か次は体育だっけ。
「そうだね。それじゃあ話の続きは放課後にして、早く教室に戻りましょう。セイバーさんは悪いけど、薔薇の舘にいてちょうだい」
「分かりました、ユミ。放課後にまた」
 そして、祐巳達が立ち上がったその時。

********************
ここで分岐です。今回から5票にします。時間はPM12時に〆切で。

萌:瞳子が「最後に提案があるのですが、セイバーさん。リリアンに通ってみませんか?」
笑:由乃さんが「駄目よ! セイバーさんは放課後は剣道部に来てもらうんだから。そうよ! いっそのこと、特別顧問になって!」
感:神父姿の聖さまがいきなり現れて「ほほう、セイバー。なかなかに楽しんでいるようだな」と言った。


Doujoker > 結局、前後半で分けました。 (No.1518 2007-10-16 03:30:09)
joker > 確認完了 (No.1519 2007-10-16 17:23:21)
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どうかなっちゃってる混ぜるなきけん  No.124  [メール]  [HomePage]
   作者:mim  投稿日:2007-10-14 03:22:23  (萌:0  笑:0  感:0)  
と「あそこにいるのは誰ですか、お姉さま」
ゆ「瞳子ちゃん、そこーにみえないの まおーがいるこわーいよぉ♪」
と「お姉さま、それーは由乃さまじゃ…?」

  じゃじゃじゃじゃ じゃっじゃっじゃぁー


jokerさまの【Cb:122】冒頭と魔王(シューベルト)とキミキスとの黒巣ひかりさま(?)
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かしらかしらびっくりかしらかしら  No.123  [メール]  [HomePage]
   作者:joker  投稿日:2007-10-13 20:10:46  (萌:1  笑:4  感:5)  
 ビスケット扉を静かに開いて中を窺うと――――

「えろいむえっさいーむ。えろいむえっさいーむ」

 菜々ちゃんが怪しげなローブを着て、呪文を唱えながら床に魔法陣らしきものを書いていた。
「……何してるの菜々ちゃん」
 私が話しかけると、
「あ、祐巳さま。こんばんは」
 と、なんとも普通に挨拶を返された。
「こんばんは。で、菜々ちゃんは一体、何をしているの?」
 ちょっとだけ、先輩風を吹かせて言ってみる。
「魔術の準備です」
 全然動じていなかった。
 けっこう凹んだ。
「へ、へぇー。そうなんだ」
 それにしても、魔術か。菜々ちゃんはいつも突拍子も無い事を始めるが、今回もまたとんでもなく突拍子が無い。
 改めて見てみると、その魔法陣はかなり複雑な模様とラテン語らしき文字で書かれており、本格的に思えた。
「でもさ、呪文唱えながら書くのって意味あるの?」
「こういうのは、気分です」
 案外、アバウトかも知れない。
「でさ、これは一体何の魔法なの?」
 私が尋ねると、菜々ちゃんは一端作業を止めて、祐巳の方を見る。
「祐巳さま。これは魔術で魔法ではありません」
「魔術と魔法って違うの?」
「違います。魔術は科学などで起こせる現象を神秘で起こす術。魔法は現代科学などを用いても起こせない奇跡の事を指すんです」
 な、なるほど。なんとか理解出来たぞ。魔術も奧が深い。それにしても、菜々ちゃんは色んな事を良く知っているなぁ。その知識をいくつか分けて欲しい。
「と、へんなおじいさんから教わりました」
「へ……? 教えてもらったの?」
「はい。恥ずかしながら」
 そういう事は黙っていた方がいいと思うのだが。だけど、こういう素直な所が菜々ちゃんのいい所なんだろう。
「今回の魔術も、そのおじいさんに教えてもらった物で、何でも昔の英雄を召喚して使い魔にする物らしいんです」
 菜々ちゃんは説明しながら、作業を再開した。
「昔の英雄か。もしかして幽霊を呼ぶ魔術とか?」
 祐巳の頭には、降霊術のような物しか思いつかない。
「似たような物らしいですが、生前と変わらない姿で、召喚されるらしいです。」
 一応、擬似的な肉体もあるそうです、と菜々ちゃんは付け足した。どうやら、生き返りっぽい幽霊という感じらしい。
 それにしても、こんな術を教えてくれたおじいさんとやらは、どんな人なのだろう。菜々ちゃんの話によると、腰にガラスの固まりみたいな物を下げていたという。
 そうして二人で話している間に、魔法陣はついに書き上がったのか、菜々ちゃんはチョーク(?)をテーブルの上に置いて、部屋の電気を消した後、魔法陣の中に立った。
「私のベスト時間は午後7時です」
 もう、そんな時間になるのか。そういえば、瞳子が7時に電話すると言っていたっけ。どう考えても間に合わない。明日、怒られるかも知れないなぁ。
「素に銀と鉄、礎に石と契約の大公――」
 でも、菜々ちゃんをこのまま放っておくことなんて出来ない。夜も遅いし、送ってあげねばなるまい。
「――王国に至る三叉路は循環せよ。閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ――――」
 いざとなったら、明日は休みなのだから家に泊めてあげてもいい。ああ、でも由乃さんや瞳子にはばれないようにしないと。
「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に――」
 菜々ちゃんに口止めしておけば、多分ばれないだろう……と信じたい。もしくはよりアドベンチャーなネタを提供すればいいのだ。
「汝、三大の言霊を纏う七天、抑止の輪よりきたれ、天秤の守り手よ――――!」
 祐巳がまったく別の事を考えている間に、呪文が唱え終えた菜々ちゃんが、ズバァァァン! と決めポーズを取っているが、やはりというべきか何にも起こらない。「………………」
「……え、えーっと、菜々ちゃん? そろそろ帰ろうか。今日は家に着くのが遅くなりそうだから私の家に泊まって、いかない?」
 祐巳が話しかけるが、菜々ちゃんは先ほどの姿から固まったままた。
「……あのー」「祐巳さま」
 祐巳が再度、話しかけようとすると、菜々ちゃんがこちらを向いて手招きを始める。
「……何か用なの?」
 とりあえず、促されるまま菜々ちゃんのいる場所まで行ってみる。
「今度は祐巳さまの番です」
「はい?」
 何か台本のような物を渡された。
 巻き添えのお誘いだった。
「さあ、物は試しです!」
「…………」
 がしっ、と肩を掴まれた。とてもじゃないが逆らえそうに無かった。
 ……最近の若い者は強いね。

 仕方がないので、先ほど菜々ちゃんがしたように魔法陣の中央に立つ。魔法陣の中央には、良く見ると槍の穂先みたいな物が刺さっていた。
「……えーっと、素に銀と鉄……」
「祐巳さま違います。最初は、『私のベスト時間は午後7時です』からです」
「…………」
 そこからなのか。どうやら菜々ちゃんは7という数字には並々ならぬ想いがあるようだ。ただし、縁があるとは限らないが。
「わ、私のベスト時間は午後7時です」
 仕方なく、最初からやり始める。でも、いくら菜々ちゃんしか見ていなくても、とてつもなく恥ずかしい。
「素に銀と鉄。い、礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ――――」
 さっきはいい加減にしか聞いていなかったが、台本を見ると結構つまずきそうな箇所が多い。
「――繰り返すつどに五度。ただ満たされる刻を破却する。」
 そして呪文もいよいよ佳境にはいる。
「告げる――
 汝が身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
 聖杯の寄る辺にしたがい、この意、この理に従うならば応えよ

 ――誓いをここに
 我は常世全ての善と成る者。
 我は常世全ての悪を敷く者。
 されど、汝はその眼を混沌に曇らせ侍べるべし。
 汝、狂乱の檻に囚われし者。
 我、その鎖を手操る者。
 汝、三大の言霊を纏う七天。
 抑止の環よりきたれ、天秤の守り手よっ――――!」
 最後は菜々ちゃんの真似をして恰好よく決めてみた。
 どうせ何も起こらないだろうに、と思ったのもつかの間。突如、魔法陣が光り始める。後ろでは菜々ちゃんが、やったー! 成功だ! と喜んでいるがこっちはそれどころでは無い。
 目の前で小さな嵐みたいなのが起こり、それから発せられる突風や圧力に耐えるのに必死である。
 そして、その光がより眩しく輝き、その眩しさに思わず目を閉じた。光が収まったのを瞼越しに感じて恐る恐る目を開けて見ると――
「問おう。貴女が私のマスターか」
 とても綺麗な女の子が目の前にいた。
 流れるような金髪、強い意志を持つ緑の瞳。身体には蒼いドレスのような服の上に銀色の鎧を纏っていた。
「ま、すたー?」
 祐巳が呟くと同じに左手の手首の付け根に焼けるような痛みが一瞬おこり、印のような物が現れる。その娘はそれを確認すると、
「セイバーのサーヴァント、召喚に従い参上した。これより我が剣は貴女と共に在り、貴女の運命は私と共に在る。ここに契約は完了した」
 剣を目の前で掲げて、祐巳に向かって祈るように目を閉じた。
 その姿は窓から差し込んで来る月の光とあいまって、とても幻想的に見え、祐巳はしばらくの間見とれていた。

********************

 そして、それからが大変だった。セイバーさんはどうやら召喚が本当に成功した結果現れたらしいのだが、こっちは特に用も無いのに呼んでしまったのだ。その事を恐る恐るセイバーさんに告げてみると、
「気にしないで下さい、マスター。私は既に呼び出して頂く必要が無い存在です。確かに多少は驚きましたが、マスターが気にするような事ではありません」
 と、にっこり笑って言ってくれた。とても良い人だった。
 その後は、菜々ちゃん交えて自己紹介などをしたりした。その中で彼女の名前がセイバーではないということが分かったり、祐巳がセイバーさんの名前を「アルトリア?ペンタゴン?」と聞きとると、セイバーが何故かがっかりしたようになり「……セイバーでいいです」とうなだれたり、隣では菜々ちゃんが目を輝かせたり。
 その他にも、セイバーさんの何故召喚出来たのかという質問に答えたりした。セイバーさんは頷きながら「なるほど。宝石の翁の仕業でしたか。しかし、ユミには魔術師の素質があったのですね」と言っていた。
 そして、気がつくと時計の針は8時を過ぎていた。菜々ちゃんは祐巳の家に泊まる事となったが、セイバーさんをどうするかだった。いくらなんでも、この姿のセイバーさんを家に招く訳にもいかない。さすがに言い訳が思いつかない。はてさてどうした物かと考えていると「私に提案があります!」と菜々ちゃんが手を挙げた。
「はい、有馬菜々さん」私も先生みたいに言ってみる。
「セイバーさんには窓から侵入して貰うのはどうでしょうか。その時に、セイバーさんの食事が確保出来ないかもしれないので、予め食事を買っておいた方がいいかもしれません」
「よし! それで行きましょう!」
 その後、セイバーさんには家への侵入経路を簡単な見取図で説明した後、ついに「セイバーさんをこっそり家に泊めちゃおう大作戦〜菜々ちゃんと一緒〜」略して「セイおう大作戦with菜々」を開始した。
 まずはコンビニに寄って食料調達。セイバーさんの要望によりなるべく多く買った。お金は菜々ちゃんと割り勘で払った。そして、セイバーさんに食料を渡した後、祐巳の家に帰り、多少のお叱りを菜々ちゃん共々受けた後、部屋に入り、なんとかセイバーさんを招きいれる事に成功したのだった。
********************

「で、その後、みんなで一日過ごしたの」
 私が説明し終えると、由乃さんに私の右肩を。瞳子に私の左手肩を掴んできた。
「へぇー、そんな、事が、あったのね!」
「お姉さま、詳しく、話を、聞かせて、頂きましょう」
 二人の後ろでは、いつの間にか来ていたのか、菜々ちゃんが「私が泊まったは隠しておけばいいのに」と小声で言っていた。
「ああああ、あの二人とも! お、落ち着いて。そう……そう! まだ話があるの!」
「へぇー、どんな話が」「あるのでしょうか?」
 二人が左右から凄んでくる。
「え、えーっと、セイバーさんの事情とかまだ聞いてないからさ、その後にしない?」
 なんとか言い訳を言ってみると、二人とも「まあ、いいでしょう」と言って肩を離してくれた。でも、「「でも後で、話はきっちり聞かせてもらうわ(ます)」」と耳にしっかりと呪いを刻んでいきました。
「……セイバーさん、セイバーさんがこっちに来る前の状況とか教えてくれないかな?」
 二人の呪いは一時棚上げして、セイバーさんに聞いてみる。
「ユミ、何故そのような事を? 必要無いように思えますが」
 セイバーさんは真剣な顔で聞いてくる。
「さっきのセイバーさんがお弁当を食べている時に、『前にいた所』って言っていたけど、和食のお弁当だったのに普通に比較していたし、もしかしたら日本じゃないかと思って」
 祐巳の分かりにくい説明にも、セイバーさんはきちんと理解してくれたようで、「なるほど」と頷いてくれた。
「それで、もしセイバーさんの前のマスターがいたら、探すのを手伝おうかと思って……」
「分かりました。おそらくは別の世界である可能性が高いですが……。マスターの希望ならばお話しましょう」
 そしてセイバーさんは語り始めた。

********************

ここで分岐です。
萌:「それは私がしろ――前の召喚者と朝日の中で別れた時の事です」
感:「私が池の前でリンと最後の言葉を交して朝日が上る頃に消えた時の事です」
笑:「私が家でご飯を食べていた時の事です」

いつも通り2票で決定です。

とおりすがり > 召還された理由は、あかいツインテールで声が同じでおなかがすいたからを希望 (No.1510 2007-10-13 23:37:32)
jokeq > 見忘れた……。明日の朝に確認した時に多い方にします。 (No.1511 2007-10-14 01:09:24)
mim > セイバーと凸さまの間で、何故か志摩子さんを廻って激しい争いが繰り広げられる? (No.1512 2007-10-14 02:56:27)
joker > 確認完了。
FateEndルートとUBWtrEndルートが…… (No.1513 2007-10-14 03:00:13)

mim > ツマラン落書きをしてから投票しに来たら確認済みだった。朝って言ってたのに…orz
jokerさま順番よろしくないのでは?
二つ目選択しようとして笑を押しそうになりましたよ (No.1514 2007-10-14 03:31:50)

joker > えーっと、じゃあ朝まで待ちます。 (No.1515 2007-10-14 04:10:32)
joker > あ、明日は忙しいので12時に確認した時点で決定にします。 (No.1516 2007-10-14 04:11:16)
joker > という訳で確定。 (No.1517 2007-10-14 12:04:40)
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その真実はフラスコ  No.122  [メール]  [HomePage]
   作者:joker  投稿日:2007-10-12 03:54:25  (萌:3  笑:1  感:1)  
「あそこにいるのは誰ですか、お姉さま」

瞳子が指を指した先にいたのは、リリアンの制服を着た金髪で翠色の瞳をした、とても綺麗な美少女だった。
 身長は瞳子と同じくらいだが、その凛々しい顔や背筋を伸ばして椅子に座るそのたたずまいからは、祐巳よりも年上に見えてしまうぐらい。もしも、このシチュエーション以外で命を救われたりしたら一目惚れしてしまうかもしれない。

 ……そう、このシチュエーション以外ならば、だ。

 今現在、彼女は瞳子に頼んで持って来て貰った4段重箱お弁当と格闘していた。というより、最初の由乃さんとのやりとりからずっと食べていた。
 彼女は、瞳子に指を指されたのもなんのその。未だハムハムとお弁当を食べていた。しかも、そのお弁当がよほど美味しいのか、一口食べる事にコクコクと確認するようにうなずいている。その首の動きに合わせて頭のぴょこんと飛び出た髪の毛がピョコピョコと動いている。
 それは最早、凛々しいとかではなく、可愛いや愛らしいと言った表現がぴったりだった。それは祐巳ですらお持ち帰りしたいと思う程に。

 結局のところ、シチュエーションが違っても別の意味で一目惚れだった。

 そんなみんなの視線(一部妖しい視線)の中、彼女はしばらくしてお弁当を食べ終えた。

「ごちそうさまでした」

 礼儀正しく合掌した後に、漸く全員の視線に気付いた彼女は少し不思議そうな顔をした後、祐巳に向き直る。
「ユミ。素晴らしい食事でした。前に居た所も素晴らしいかったですが、このお弁当はそれ以上かもしれません」
「って、ちょっと待てや」
 彼女の的外れな言葉に由乃さんが吠えた。
「今! この状況で何故お弁当の話なのよ! 普通なら私達の事とか、この視線の意味とか聞くでしょう!」
 由乃さんの言葉に彼女は何故か驚愕した顔をした。
「な、何を言っているのです! こんな素晴らしいお弁当を頂いたのですから、それへの謝辞が第一優先ではありませんか!」
 彼女の言葉は、言葉だけ聞けばまともだが、やっぱりどこかずれていた。
「ちょ、ちょっと二人とも喧嘩しないで。私から説明するから」
 祐巳が止めに入ると、二人とも我に帰り、お互いにばつの悪そうな顔をした。
「ごめん、祐巳さん。少し熱くなりすぎたわ」
「すいません、ユミ。少々我を忘れていました」
 二人とも祐巳に向かって素直に頭を下げると大人しく自分の席に戻っていった。案外この二人は似た者同士かもしれない。
「それで、お姉さま。その人は誰ですか?」
 祐巳達がそんなやりとりをしていると瞳子が、何故か、とても素晴らしい笑顔で不機嫌に言った。
 その祐巳を見る目は、在りし日のお姉さまと同じくらい恐かった。ひきつった口も怖かった。ひきつった頬も恐かった。――その顔が恐かったのだ。ついでにドリルも恐かった。
「さあ、早く」
「う、うん。分かったから、そんな顔しないで」
 瞳子の顔に脅えつつ、祐巳は彼女と出会った時を思い出しながら語り始めた。

********************

 それは2日前の土曜日に遡る。
 その日、祐巳は、最後の予算の報告を引き受けて職員室に行っていた。いつもなら瞳子と一緒に行くのだが、瞳子は今日演劇部に出ており、部活が終わった後も家の用事があるとの事で大急ぎで帰っていった。去年、祥子さまも家の用事で帰られる事が幾度かあった。瞳子も祥子さまよりかは少ないものの家の用事があるらしく、さらに演劇部にも所属していて大忙しである。
 そんな瞳子を見て、これは姉としても頑張らなくてはならない! と意気込んでやったはいいものの、時間を忘れてすっかり遅くなってしまった。さらに、由乃さんは定期健診で途中退場。そして、志摩子さんが時間に気付いて、おひらきにしましょうと言ったのが、つい30分前の事。なんだか二人を付き合わせるような形にしてしまったので、報告を引き受けて解散したのが、ついさっきの事である。
 そして今、午後6時。日はほとんど沈みかけており、人もほとんどいなかった。 そんな時である。帰ろうとした祐巳はふと気になるものが目に止まった。
 それは何故か電気のついている薔薇の舘。最後に舘を出たのは祐巳だったが、さすがに電気の消し忘れなどはしていない……はずだ。
「一応、確かめてみますか」
 そう一人呟いて、さっそく薔薇の舘へと向かった。そして、案の定というか、扉の鍵もかかっていなかった。
「誰かいるのかな……?」
恐る恐る扉を開けて中に入ると、階段の上から誰かの声が聞こえてくる。
 そのまま、最近瞳子から教わった歩き方で、音を立てないように静かに階段を上り、ビスケット扉を静かに開いて中を窺うと――――

********************

ここで分岐です。
萌:菜々ちゃんが怪しげなローブを着て、呪文を唱えていた。
笑:江利子さまが白装束を着て、片手に藁人形を携えていた。
感:聖さまが神父の恰好で、祐巳に向かって「ようこそ、我が教会へ」と言った。


前回同様、先に2票入ったルートに行きます。ただし、私が見た時に全部2票以上だった場合、一番多い物にします。

joker > こっちで決まったルートをガチャSに投稿する事にしました。
オススメは菜々ルートです。聖さまルートはギャグというかノリで思いついたので作者的に厳しいかも知れません。多分。 (No.1506 2007-10-12 03:59:07)

joker > 確認完了 (No.1509 2007-10-12 16:30:01)
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知られざる軌跡  No.121  [メール]  [HomePage]
   作者:joker  投稿日:2007-10-10 18:20:14  (萌:6  笑:1  感:0)  更新日:2007-10-11 14:40:16
 あるよく晴れた日の昼休み。
 薔薇の舘で昼食をとっていた祐巳は、向かいで同じようにお弁当を広げている由乃さんに話しかけた。
「ねえ、由乃さん」
「なに?」
「わたし、マスターになっちゃった」
 …………
 由乃さんは一瞬、怪訝そうな顔をしたあと、目を伏せて何も無かったかのようにまたお弁当に箸を伸ばし、言った。
「なんの?」
「マスターと言ったら、サーヴァントのマスターだと思うよ?」
 すると、また由乃さんは怪訝そうな顔した。しかもさっきより深みが増している感じがする。
「サーヴァントって言ったら、日本語で、召し使いって意味よね」
「意味は分かんない」
「じゃあ、なんのマスターよ?」
「だから、サーヴァント」
「…………」
 一行に話しが進まない。
 このままでは話が進まないと思った由乃さんは、もう何か、やけくそになりながら、自分のお弁当からきんぴらごぼうを一つ摘まんで祐巳のお弁当のご飯の上に置いた。
「就職された祝い」
「意味が分かんないよ?」
「マスターが、好き嫌いしちゃダメでしょ?」
「由乃さんも好き嫌いダメだと思う……」
 何の論理を持ってその答えが出てくるのか、とても不思議に思われる。
「というか、由乃さん。いつもの流れを無理矢理通さなくてもいいんじゃない?」
「祐巳さんが何のマスターか分かっているのがいけないのよ!」
ばん、と机を叩いてぐわっと叫ぶ由乃さん。
 そして祐巳を睨みつけて、そのお弁当の中にあった玉子焼きをかっさらい、そのままパクッと食べてしまった。
「よ、由乃さん。それ、私のとっておき……」
「等価交換よ!」
「…………」
 理不尽だった。
「私のピーマンもあげるから、それでいいでしょ!」
「…………」
 不条理でもあった。
「だいたい、マスターってなによ! いままでも、神さまやら死神やらオッパッピーやら十分わけわからなかったのに、今さら何になるっていうのよ!」
「……オッパッピーってなに?」
 吠える由乃、呆れる祐巳。
 ちなみに、オッパッピーはOcean Pacific Peaceの略である。
 と、その時。舘の一階の扉が開く音と閉まる音が同時にしたかと思うと、ドタバタゴンと誰かが階段を上ってきた。そして、その誰かさんはビスケット扉の前で一端停止し、すぐに扉を開け放つと、こう申し立てたのである。

「今! マスターの話をしていたわよね? 祐巳さん?」

 それは、今日は乃梨子ちゃんと桜の木の近くでお昼をとっていたはずの志摩子さんだった。
 というか一体どこで聞いていたのだろうか? どうやら志摩子さんには対蔦子さん用アイキャッチ以外に地獄耳もステータスに追加した方がいいみたいだ。
 ちなみに、乃梨子ちゃんは引きずられて来たのか、志摩子さんの足下でズタボロになっている。ちなみにちなみに、祐巳の隣では由乃さんが、そうか。あの最後のゴンはコレの音だったのか。と呟いていた。というより非道だった。
 そんな私達を気にせずに、志摩子さんは足に絡まっていた乃梨子ちゃんの手を無造作に外すと、私達に向き直った。
「わたしも気づいていたわ! 今日の祐巳さんは一味違うって!」
「「そ、そうなんだ……」」
 若干引き気味のロサ?キネティダを無視して、志摩子さんは目を輝かせて祈るように胸で両手をくんでいる。
 ちなみに、乃梨子ちゃんは今は部屋の隅で瞳子の手当てを受けている。時折「ちょっと痛いよ〜瞳子ぉ」とか「我慢して乃梨子! ほ、ほらこれでいいでしょ」とか「うん。ありがとう瞳子」とか「あ、あたりまえですわ! 親友なんですから」とか聞こえてくるけど、気になってなんかないし、嫉妬なんかしていない。時折じゃなくて全部聞いていたとしても気にしてはいないのだ。
「? どうしたのよ、祐巳さん。しかめっつらなんかして」
「………………」
 無理だった。
 そんな私達をさらに無視して、志摩子さんはさらに暴走しはじめる。
「マスターと言えば、何かを自分の支配下におく事を許された選ばれた人間。かつての劉玄徳やアーサー王の様な多くの偉人に与えられる特権! そして今日、廊下で桂さんから何かを受け取る祐巳さんからは」
 そう言って、遠くの輝かしい太陽を見つめる様な空っぽの目で、何かを思い出すように虚空を見つめて、
「カリスマに満ち溢れていたわ」
 そう言って、聖母の様に微笑んだ。
 やはり、分からない人には分からないのだろう。
 そりゃあ桂さんと比べたら誰だってそうだ。
「一応聞いておくけど、由乃さん、私、カリスマあった?」
「んー、何故か申し訳なさそうなかんじと感謝してるかんじがあったから、カリスマって言うより借りますって感じだったわ」
 さすが名探偵由乃さん。真相をついている。ちなみに借りたのは一昨日録画しわすれたドラマだ。
 そんな事より、なにやら先ほどから瞳子が、おずおずと言ったかんじで私の後ろに控えている。
「どうしたの? 瞳子。別に乃梨子ちゃんとどんな関係でも私は気にしないよ?」
「へ? あ、違うんです! その事じゃありませんし、それは――」
 ――誤解です!

 言葉にはできず。
 必死な想いを込めて、おろおろしながら祐巳を見上げる。

 ――――ものすごく慌てている瞳子。
 祐巳は、悲しげに瞳子の目を見つめたあと。

「分かってる。大丈夫だよ、瞳子。私は、これから(一人で)頑張っていくから」

 ポン、と肩に手をおく音。
 祐巳は瞳子の答えを待たず、静かに手を離した。
「違う……違うんです、お姉さま」
 瞳子は絶望した顔して、呟きながら膨大の涙を流していた。

 しばらくして漸く落ち着いた瞳子は、先ほどからずっとプリプリと頬を膨らまして不機嫌を体全体で表している。というか、もの凄く可愛い。この姿を見れたのならば、今までのやりとりもきっと、間違いなんかじゃないんだ!! と思えてくるからフシギダネである。I am the bone of 'Love to my Drill'.
「お姉さま! 一体何をニヤけているんですか!」
 瞳子の大声で祐巳は、はっ、と我に帰った。どうやら、夢(妄想)を見ていたらしかった。
「ああ、ごめんごめん。それで何かな、瞳子」
 改めて、瞳子に向き直ると、瞳子は、コホンと一拍おいて口を開いた。

「あそこにいるのは誰ですか、お姉さま」

********************
ここで分岐です。パターンは二通り。

笑いボタン:「瞳子の指した先にいたのは、赤い外套を纏った肌の色が浅黒く、銀髪の背の高い男性だった」

萌えボタン:「瞳子の指した先には、リリアンの制服を来た見たこともない、金髪と翠色の瞳をしたとても綺麗な美少女が、重箱に入ったご飯やおかずをハムハムコクコクと一心不乱に食べていた」

先に5票入ったルートに進みます。

joker > 冒頭の元ネタが他人のなのでここに投稿。
了解が得られればガチャSに投稿したいなぁー、と思ってーいーまーすー。 (No.1502 2007-10-10 18:27:42)

くま一号 > 「ねえ、由乃さん」
「なに?」
「わたし、Forestになっちゃった」
 …………
 由乃さんは一瞬点目になったあと、回し蹴りで祐巳を粉砕してサーバーに火をつけに行った。
お帰りなさい。Forest組はまだ行方不明者多数…… (No.1503 2007-10-10 23:24:09)

joker > あ、忘れてた。もし感動票ならば、笑+萌になります。あと、5票はここでは無理そうなので2票で (No.1504 2007-10-11 03:50:25)
まつのめ > 了解了解。というか両方読みたい気がしたんですがもう決まってますね。 (No.1505 2007-10-12 00:49:39)
joker > 「貴方こそ最優の家政夫さん」ルートは×××××な所で書くかも知れません。もしくははぁつねみぃくまさまが引き継いでくれるかも知れません。かも、知れません。 (No.1507 2007-10-12 04:02:08)
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