12月21日。
 前回は存在しなかった、俺がこの世界でハルヒを見つけた日の翌日。
 家も妹も猫のシャミセンも両親も代わり映えはしなかったし、こうして学校へ向かう上り坂を見上げてもいつもの通りだった。もしかしたら、昨日のことは夢の中の出来事でこのまま学校へ行くと普通にハルヒが居るような気さえしてくる。それを早く確認したくて俺はいつもよりもかなり早く家を出てきたのだった。
 早い時間なのでいつもより坂を登る学生の姿もぽつぽつとしか見られないが、取り立てて世界が変わってるなんて感じられる程じゃない。だが、俺の後ろを通り過ぎるのはブレザーの女子と詰襟の男子。
 ここは光陽園学院と北高のいわば通学路の分岐点で、お嬢様女子校たる光陽園の黒いブレザーを着た女子生徒が良く通る場所なのだが、見慣れた黒いブレザーに混じって今日は詰襟の制服姿の男子生徒も同じ方に向かって歩いているのだ。
 これは紛れも無く光陽園が共学で進学校な昨日の続きだ。せめてこの坂を登りきるまでは夢を見させてくれても良かっただろうに。
 少し重くなった足取りで俺は学校までの道のりを登っていった。
 昨日はあれから、ハルヒに根掘り葉掘り俺の身の上に起こったことを聞かれたのだが、俺は俺でその質問に慎重に答えながら現状をどうにかするようなアイデアを探していた。
 結局そのようなものは何も浮かばなかったのだが、とりあえずあそこに居た五人でSOS団を結成することがハルヒの中では既に決定事項になっていたようで、あいつは全員に今日の放課後、光陽園駅前の喫茶店に集合することを義務付けていた。まあ無理に来ることは無いと後で朝比奈さんには伝えておいたが。
 重い足取りではあったが、家を出たのが早かったのでいつもより早く教室に着いた。
 流石に教室はまだ人もまばらで空席が目立つ。風邪が流行ってるらしいから本当に一日中空席になるところもあるだろうが、大体の奴はまだ登校してきていないのだろう。
 俺は教室の入り口から自分の席のすぐ後ろの席に目をやった。今だ登校していないその席。それは本来はいつも偉そうな笑みで自分勝手な要求を俺に押し付けてくるあいつの座る席だ。だが、今は……。
 俺はそいつの薄ら寒くなるような、しかしとびきりの笑みを思いだして早退してしばらく休学したくなった。
 そうだ。今からでも遅くない。帰っちまおう。
 そう思い、俺は抱えている鞄をそのままに踵を返して教室に背を向けた。
「キョン君、登校早々カバンを持って何処へ良くの?」
「うわぁ!」
 俺は背後から声をかけてきたそいつの顔を見て反射的に飛び退いて廊下の壁に張り付いた。
「……またその反応? 今度は殺人鬼か何かに出会ったみたいな顔して、いったい何なの?」
 そのまんまじゃねぇか。
 美少女ランクAA+、俺のクラスの委員長、朝倉涼子だ。
「い、いや、おはよう朝倉。今日は具合悪りぃから俺早退するわ」
 俺は早速全力で撤退準備を始めた。
「流行りの風邪? その割には元気そうだけど」
 朝倉はその深い色の双眸で俺を見つめながら首を可愛らしく傾げ、艶やかな長髪がそれに合わせて揺いだ。
 だが、そんな朝倉の動作も俺の目には恐怖としてしか映らない。
 だってこいつは二回目に俺を殺そうとしたあの朝倉そのものなんだぞ。冗談じゃない、そんな奴が後ろの席に座っていて落ち着いて授業なんか受けられるものか。
 ここはとっとと戦術的撤退を決めるしかあるまい。
「いや、悪寒が寒いし、頭痛も痛いし、腹痛が痛んでたまらないんだ。だから帰って静養する必要がある。じゃあな!」
 早口で捲し立て、俺は踵を返して教室と反対方向に去ろうとした。
「あ、待って!」
 だが朝倉はそこで俺の手を掴みやがった。こいつ、ハルヒ並に腕力がありやがる。
「は、離せ! 俺の欠席理由を増やすつもりか?」
「何を言っているの? そうじゃなくて、そんなに具合が悪いんなら保健室で少し休んだ方がいいわ。せめて解熱剤飲んで熱を冷ましてから帰りなさいよ」
 そう言って引きまくる俺に顔を寄せて、額に手を伸ばしてきた。
 や、やめろっ! 俺に近寄るな!
 朝倉の髪からなにやらいい匂いが漂い、俺の感覚を麻痺させる。
「……熱は無いみたいね。でも冷や汗掻いてるわ。病院に行ったほうがよさそう」
 結局朝倉は大丈夫だと言い張る俺を「心配だから」と保健室まで連行し、保険医に俺を任せて教室に戻っていった。
 生きた心地がしなかったが、まあ結果的に委員長のお墨付きで保健室に居座ることが出来たから結果オーライだが。


 人間その気になれば意外と眠れるものだ。
 俺は3限目の終わりまで熟睡して保険医に叩き起こされた。なんでも保健室を留守にするから、家に帰るか、教室に戻れというのだ。
 そして保険医は俺に熱を測らせ、平熱なことを確認した上で、もう来るなと俺を保健室から追い出した。
 まあ元々病気でもなんでも無かった訳だがら仕方が無いが、折角なら4時限目の終わりまで寝かせて欲しかった。短縮授業なんだからそれくらい気を利かせてくれたっていいだろ?
 それはともかく、半端な時間に起されてしまった俺は、放課後まで何処かで時間を潰さなきゃならなくなった。放課後になったら駅前の喫茶店に集合だからな。
 というわけで俺は時間をつぶす場所を求めて彷徨ったのだが……。
「あら、キョン君、もう大丈夫なの?」
 朝倉は俺の顔を見るなりそう言った。
 文芸部室にも行ってみたが鍵が掛かっていて入れなかった。結局行くあてが無く、教室に戻って来てしまったのだ。基本的に俺は理由も無く平気で授業をサボるような不真面目な人間じゃない。本当だぞ? 確かにこの世界で初めてハルヒの所在を告げられた時は授業をほっぽって学校を飛び出てしまったが、あれは緊急モードというか俺もまともな精神状態じゃなかったからだ。それに朝倉が恐ろしいとはいえ、今朝の様子からすると、この朝倉は長門に危機が迫らない限り安全っぽいという判断もあった。残念ながら確証はないが。
 もう授業開始間際で朝倉は席についていて、取り巻きの女子達の姿も見えなかった。
「……まあね」
 心配そうに俺を見ている朝倉は、こうして見るとあの狂気の朝倉が嘘みたいだ。
 俺はさりげなくを装って朝倉の前の席に着いた。
 だが、何のきっかけでああなるか判らない。だから朝倉の前で長門の話題は厳禁だ。
 と、思っていたんだが。
「ねえ、良くなったのなら聞いておきたいことがあったんだけど、あなた昨日の放課後文芸部室に居たわよね?」
 いきなりこう振ってきやがった。
「……なんのことだ?」
 俺が振り向くと、朝倉はキラキラと光沢が見えそうな笑顔で微笑んでいた。
「恍けなくってもいいわよ。有希のとこへ行ったんでしょ?」
 どこかで見てたのか?
「あ、ああ。そうだが」
 仕方なく俺はそう答えた。隠して如何なるというものでも無かろう。
 しかし、どうする?
 こいつに長門に関する話はまさに爆弾だ。
 今は良いが、下手なことを言うと後で襲われかねん。
「昨日あなた授業サボってどこか行っちゃったじゃない」
「ああ。その件はあまり聞かんでくれ」
 ハルヒと同じ中学だった谷口にあいつの所在を聞いて居ても立っても居られず速攻で飛び出して会いに行った時の事だ。だが、正直に話せばまた頭がおめでたい人と思われるのが関の山だし、気の利いた言い訳を考えるのも面倒だった。
「それは今はいいわ。で、有希に会いにまた戻ってきたのよね?」
 有り難い事に、朝倉はそちらを追求する気は無いようだ。
 しかし委員長としてクラスメイトの奇行を心配するのが後まわしでいいのか? まあその当事者の俺に心配されたくは無いだろうけど。
 やはり、朝倉は長門のことが最優先事項らしい。
 昨日はハルヒと古泉と朝比奈さんも一緒に居たが、どうやら朝倉は最後まで残って一緒に部室を出た俺と長門を目撃しただけのようだった。それをわざわざ言うこともあるまいが。
「まあ、そんなところだ」
 俺はそう答えた。
「昨日あなたが何をしてたのかは聞かないわ。でもね……」
 朝倉はそう言って身を乗り出し、顔を至近距離に寄せてきた。
 しなやかな黒髪が朝倉の肩から流れ落ち、芳香が鼻をくすぐる。
「有希を泣かしたら、わたしは許さないから。 いい?」
 俺は仰け反り、恐怖に身を硬直させた。 怖ええよ。
「あ、ああ。でも泣かすってなんだよ? もしかしてなにか誤解してないか?」
「誤解? なんのこと? 私はキョン君が有希と付き合うの反対するつもりは無いわよ? 有希も満更じゃないみたいだし。あの有希が男の子に興味を持つなんて凄いことなんだから」
 やっぱりそっちの話かよ。演技かマジかは判らんが、この朝倉も世間一般の女子どもがそうであるように色恋沙汰の話題が好きなようだ。
「それが誤解だって、そんなんじゃねぇよ」
 朝倉は「そうなの?」と乗り出した身を戻して続けた。
「まあそれでもいいわ。でも仲良くしてあげてね。あの子、ああいう性格でクラスでも孤立しちゃってるからさ」
「ああ、判ってるさ」
 宇宙人の手先じゃなかろうとも俺が長門と仲良くしない理由は無い。変な意味じゃないぞ? ここの長門はあの長門が示したあいつの一つの可能性だ。俺はそれを蔑ろにすることなんて出来ない。
 ようやく次の授業の教師が教室に入ってきて、朝倉が続けて話した如何に長門がクラスに溶け込めるように努力しているかの訴えは中断した。
 しかし、教室に戻ったのは間違いだったか?
 生きた心地がしない4時限目の授業が終わり、俺は誰かに話し掛けられる前に速攻で教室を出た。ゆっくりしているとまた朝倉が話を振ってくるかもしれんし、駅前の喫茶店でハルヒが待っている。
 てか、別にあいつに早く会いたいとか思ってる訳じゃないぞ。遅れたから驕りとか言いだすかもしれないから早く行こうと思っただけだ。前のハルヒは時間に遅れなくても最後に着いたってだけで奢らされてたからな。
 そんなことを考えつつ、下履きに履き替え、校舎を出たところでふと、小柄で生っ白い無口な眼鏡っ子の事を思い出した。集合というといつでも俺よりも早く集合場所に突っ立てる長門が思い浮かんだが、ここは学校だし、ここの長門はあの長門と違う。文芸部室に寄って行った方がいいか?
 そう思って立ち止まり、振り返ったら、
「あ」
「うわっ」
 いきなり脳裏に浮かべた姿が目の前にあった。
 鞄を抱えて下履きに履き替え、帰り支度万全の長門だ。
 どうやら校舎を出たところで待っていたようだ。
 長門は声をかけようとした所でいきなり振り返ったもんだか驚いたのだろう、胸に手を当て、眼鏡ごしに見開いた目を俺に向けていた。
「……長門、一緒に行くか?」
 長門は黙って頷いた。
 俺は長門と並んで校門を出た。並んで長い坂を降りて行く間、長門は俺のことを意識するように頻繁に視線を向けてきたのだが、俺が気付いて視線が合うと慌てたようにして恥ずかしそうに俯くのだ。そんな長門に俺はどうかしてしまいそうだった。


 駅前の喫茶店で開かれたのは第一回『超SOS団』ミーティングであった。
 なぜ超がついたのかハルヒに問いただしたら、目の前の不思議に気付かないような改変前のハルヒが作ったSOS団とは違うからだと言った。何故だか知らんが、このハルヒは改竄前の北高のハルヒに対抗心をもっているようだ。同属嫌悪って奴か?
「ちょっとジョン、ボケっとしない!」
「ああ、手がかり捜索だろ?」
 早速だが、今日の活動は街中を手分けして捜索なのだそうだ。
「あんたをここに送った奴のメッセージとか、時空の歪みとか、未来人とか宇宙人とか、あとあんた達も何か思いだすとか超能力が発現するとかしたらすぐ報告すること!」
 ハルヒは昨日の俺の話から、確信を持って宇宙人未来人超能力者を発見するんだと息巻いていた。最初に光陽園の前で会った詰まらなそうな様子とは180度打って変わって元気百倍笑顔100ワットの超絶好調だ。
 そして、そんなハルヒに『あんた達』呼ばわりされているメンバーとは俺も含めてここにいる朝比奈さん、長門、そして古泉。
 古泉はまあ同じ学校だから当然来るだろうと思っていたが、その古泉は俺の隣で暖房の効いた店内にも関わらず意味もなく涼しげな笑顔を浮かべている。朝比奈さんは昨日の帰りがけに、無理に来なくてもいいと言っておいたのだが、何の因果か今日は書道部の活動が無かったそうで、帰りがけに迂闊にも集合場所の喫茶店の前を通りかかってしまった。というか、場所は朝比奈さんも聞いていたから判っていて覗きに来たのかもしれないが、窓越しに俺と目が合った朝比奈さんは、俺の視線に気付いたハルヒに即座に捕獲されてしまった。
 今、その朝比奈さんは泣きそうな顔でハルヒと長門に挟まれて座っている。
 助けを求めるように上目遣いで俺のほうを見てるのだが、ごめん、朝比奈さんそれすっごく可愛いっす。
 その隣の俺と一緒にここに来た長門は、黙々とハードカバーを開いて読んでいるが、時々俺のほうにちらちらと視線を向けてるのはなんなのだろう。俺の知っている長門とは違って顔色がほんのり桜色に染まってるのは喫茶店の暖房が効きすぎているせいだと思いたい。
 『せい』といえばこの元の世界と違って普通人の朝比奈さんと長門が巻き込まれたのって俺のせいなんだよな。古泉は元からハルヒとセットで現れたから除外するが。


 やはり同じ人間の考えることは同じになっちまうのだろうか。
 これからの予定は二手に分かれて市内をうろつき、なにか発見できたら現状を携帯で報告し合ってその都度対応を決める。最後に落ち合って反省と今後の展望を話し合う。
 と、以前にもやったようなことをハルヒが決めた。決めたというか最初からそのつもりだったようだ。こんなの話し合いですらない。
 そして店の爪楊枝を五本取り出してくじを作り、組み合わせを決めた。
 しかしこれは偶然なのか? 綺麗に北高組と光陽園組に分かれてしまったのは?
「……まあ、いいわ。じゃあ時間になったらまたここに集合よ!」
「ああ、判った」
 割り振りは駅を中心にして向こう側とこっち側。
 駅の向こう方面へ向かうハルヒのブレザーと古泉の学生服を見送った後、俺は朝比奈さんに言った。
「朝比奈さんはもう帰ってもいいっすよ。ハルヒには俺から上手くいっておきますから」
 長門と違って朝比奈さんは自分の意志で参加したんじゃないからな。
「えっ、い、いいえそんな、いいです」
 可愛らしい声でそう言う朝比奈さんは、手を振って俺の申し出を辞退した。
「ほんとに、無理に付き合わなくてもいっすから」
「いえ、お付き合いさせていただきます」
 どういった風の吹き回しだろう?
「いいんですか? ここで帰らないと、ずっとあいつのバカな行動に付き合わされることになるかもしれませんよ?」
「あ、いえ、涼宮さんも楽しい方ですし」
「まあ朝比奈さんがいいっていうんなら……」
 というか、初対面であんなセクハラ紛いの発言をしてしまったから嫌われてると思ってたんだがなぁ。
「長門は?」
 反応がいいのは話しやすい。長門はすぐに俺の方を向いた。
 俺はあの元の世界の長門の扱いにある程度慣れてきてはいたが、こちらの長門はそれと比べれば遥かに扱いやすいと言える。問題なのはむしろ俺がこの長門を見ているとあの元の長門の微妙な変化を読み取れなくなりそうで怖いってことだ。まあ怖がってても仕方がねえ。こうなっちまった以上この長門とも付き合うしかなのだから。
 さて、こいつは積極的にここに来たみたいだが、こんな馬鹿なことに付き合う気があるのだろうか?
「おまえは俺の言うこと信じるのか?」
 冷静になってみれば、いやハルヒが騒ぐので相対的に俺は冷静にならざるをえなかったのだが、あの話は普通の人間が聞けば「こいつ頭がどうかしてるんじゃないか?」としか思えない内容のはずだ。言っている俺がそう思ったくらいだからな。
「涼宮さん」
 長門は囁くような声でポツリと言った。
「ハルヒがどうした?」
「あの人、嘘言ってるように見えない」
 三年前の七夕の話のことか。
「まあそうだな」
 あいつはやることはめちゃくちゃだがそんなに裏表はない。タチの悪いクセはあるが、いつでも直球を投げてくるようなやつだ。
「あなたも。だから信じる」
 ぱっちり開かれた瞼に浮かぶ大きな双眸で俺を真摯に見つめ、そう言ってくれる長門が嬉しかった。
「そうか。ありがとな」
 頭を撫でてやりたくなったが、思わず出かかった手を止めた。
 慣れねえ。長門が頬を赤く染めて照れたように顔を逸らすなんて。
「あ、あたしもっ!」
「朝比奈さん?」
 朝比奈さんが思いつめた顔で話に割り込んできた。
「あたし、ジョン君の話、信じられなかったけど、まだ全部は信じられないけど、でも涼宮さんが信じているから。それにあたしの、えっとその、あの」
 ん? 赤くなってもじもじするのは凄く可愛いんだが、なんでここでその反応なんだ?
「……家で確認したら、その、星型でした」
「はぁ?」
「その、変わる前の世界ではあたしとそ、そそ、そういう関係、だったんですよね? そう考えるとあの時のジョン君の行動理解できるし、それに、あたし、ジョン君となら……」
 朝比奈さんの顔が湯気が出てきそうなくらい真っ赤だ。
 いや、そういうって、なんだ?
 朝比奈さんなにか激しく誤解していないか?
「あー、あの朝比奈さん」
「は、はいっ!」
 いや、そんなに畏まらなくても。
「俺と朝比奈さんはそういうこと無かったから」
「えっ!?」
「というか教えてくれなかったから詳しく知らないんだけど、俺とあまり仲良くなったらまずいって言ってましたから」
「そ、そう、なんですか?」
「ええ、まあずいぶん世話にはなってましたけど」
 色々な意味でだ。
 余韻があってか、まだ顔が桜色だが、テンションがクールダウンした朝比奈さんは、ほっとした、というよりガッカリしているように見える。
 いや、俺も申し出は眩暈がするほどありがたかったんだけど、思わず突っ走ってしまうところだったけど、流石に誤解に便乗するのはまずいだろ? それに騙して朝比奈さんと付き合うなんて俺の信条にも反するし。
「判りました。とにかくお話は信じますから、ジョン君は気になさらないで下さい」
 朝比奈さんはそう結んだ。
 つまり超SOS団の活動には参加するってことか?
 俺としては歓迎だけど朝比奈さんも物好きだよな。
「そういうことなら、じゃあ行きますか」
「はい♪」
 かくして、探索隊は当初の構成のまま続行とあいなった。

 とはいえ。

 探すっつっても、どうしたらいいんだ?
 俺は朝比奈さんと長門を連れて市街地を歩いていくうちに、なにやら間違ってる気がしてきた。ハルヒの押せ押せな行動に流されてしまったが、今回は不特定の不思議を探しているのではないのだ。街をぶらぶらするだけで手がかりが見つかるならそれに越したことはないが、街中でばったりそういうものに出会う確率ってどれほどのものだ? 第一こんなことで不思議なものに出会えるくらいだったら、世界は不思議でいっぱいだ。俺はそんな世界嫌だ。
 結局、時間までに戻れるように三人で川べりの遊歩道をぶらついてまた戻ってきた。
 当たり前のことだが、収穫はなし。
 戻ってからハルヒに「適当にぶらぶらしてたんじゃないでしょうねえ?」とか言われたが、俺と朝比奈さんでシラをきり通した。
 結局ハルヒ達も同じく何も無かったようで、いたく機嫌を損ねていたがあいつは明日もまた同じ時間にこの喫茶店に集合と宣言した。



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